【起業型地域おこし協力隊募集中!!】好きな木に触れ続けて手に入れた自分の強み―坂野昇平さんの厚真町での3年間―

2024年8月10日

2020年厚真町ローカルベンチャースクール(以下「LVS」)にて「人と森をつなぐ Forest Space」の事業プランが採択され、2024年3月末で起業型地域おこし協力隊の3年間の任期を終えた坂野昇平さん。この3年で「morinov」(モリノブ)を立ち上げ、林業や木工の技術を磨き、町内外でのイベント出店や木工製品の製作に取り組んできました。坂野さんが起業型地域おこし協力隊として3年間をどのように過ごし、これからどのように夢を広げていくのか、お話を伺いました。

厚真町は今年もローカルベンチャースクール2024を開催します。
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坂野昇平さん
 北海道千歳市生まれ、函館市育ち。小学生のころから環境問題や林業に関心があり、大学でも林業について学ぶ。環境に優しい林業として馬搬を研究テーマとし、ドイツへの交換留学も経験。馬搬を通してすでに厚真町に移住していた西埜さん(※)に出会い、厚真町を知る。2018年、新卒でLVSをチャレンジしようとするも胆振東部地震が発生し、断念。2019年、再度チャレンジするも、何も経験がない新卒で地域おこし協力隊になることに疑問を感じ辞退し、民間企業に入社。コロナ禍になり思っていた仕事ができず、2020年LVSに再々チャレンジ。付加価値のある森の空間作りを行う事業プランを提案し、採択。2021年より起業型地域おこし協力隊として移住。

・坂野さんの経歴やLVSでの挑戦の模様はこちら
https://atsuma-note.jp/atsuma_lvs2020_sakano/

※起業型地域おこし協力隊を経て西埜馬搬を営む西埜さんの記事はこちら
https://atsuma-note.jp/nishino-masatoshi/

デジタル技術を用いた木工を通して改めて感じた木の可能性

― まずは3年間を振り返ってみて、一言で表すとどうなりますか?

坂野:とにかく木に触れた3年間でした。林業の一通りの作業である植え付け、下草刈り、間伐を経験させてもらって、薪や炭づくり、木工など最終加工も行ってきました。楽しかったことはいっぱいあって思い出せないくらいです。体力的にキツいことはもちろんありましたが、本当にやりたかったことや興味のある分野で仕事ができているのは本当に幸せだと感じながら過ごしました。

―具体的に3年間どのように過ごしましたか?

坂野:ずっと継続していたのは薪や炭作りで、次に季節ごとに林業の仕事を行い、それ以外は木工での製品づくりに時間を使いました。1年目の夏にNCルーター(データを元に木材などを切削加工する機械)を購入し、1年目の終わりに「morinov」(モリノブ)を立ち上げて、木工製品の販売を始めています。現在、一般社団法人ATUMANOKI96(※)を通じた木のキーホルダー等のノベルティ製作や、イベント出店や口コミからの個人受注製作が増え、徐々に木工事業の割合が大きくなっている状況です。

※厚真町で木製品の開発やツアー、ワークショップ等を実施。坂野さんもメンバーの一人。
一般社団法人 ATSUMANOKI96
https://www.atsumanoki96.com/

―現在木工に力を入れていると思いますが、なぜ木工なのでしょうか?

坂野:移住した当初、環境教育や薪作り等、何かのプロとして厚真町に来たわけではないので、自分の強みが欲しいと思っていました。そこで、町内で最終製品を作る人として職人作家さんは多数いるので、お客さまのオーダーに対して作る人になれないかと考えたんです。そんな時に木の種社の中川さん(※)が札幌にあるNCルーターを扱っている会社と繋いでくれて、大学の時にNCルーターのような機械を使った経験があったこともあり、「ここに投資しよう」と思って買いました。

※起業型地域おこし協力隊を経て木の種社を営む中川さんの記事はこちら
https://atsuma-note.jp/nakagawa-takayuki/

坂野さんが購入したNCルーター。3DCADのデータに沿って旋削や彫刻加工等を行うことができる。坂野さんはこの他にも画像データを元にレーザー加工する機械など、デジタル技術を用いた機械を導入している。
坂野さんがNCルーターで製作し、仕上げを行ったコースターや皿などの木工製品。このほかにも手彫り風の看板などの大きめな作品も製作可能。

―かなり高額な投資だったと思います。1年目にして大きな決断でしたね。

坂野:これからもデジタル技術はどんどん発展していきますし、木材というものの価値は変わらないと思うので、うまく噛み合えば伸びると考えました。当時やっぱり早まったかなと思ったんですけど、その後半導体や部品がなかなか手に入らない社会情勢になって、今買おうとしても同じ金額ですぐ買えるものではなくなったので、すごくいいタイミングでした。その後の木工事業で大きな活躍をしてくれているので思い切って買ってよかったです。

―木工はLVSでの事業プランとどう繋がっているのでしょうか?

坂野:実は木工の方がメインになっていて、事業プラン自体はほぼ進んでいません。でも、木工という川下の出口が確保されて利益が出せるようになってくると、人と森をつなぐような森の空間づくりなどの川上もできるのではと思っています。なので、今は土台固めの時期ですね。
最初、木工は老後の趣味でやるものという印象で、あまり可能性を感じていませんでした。でも、「NCルーターやレーザー加工機でこういう加工ができます」と見せると、こういうものが作れないか?という依頼が広がっていって、どんどん潜在的なニーズを掘り起こすことにつながっています。やっていることは地味かもしれないですけど、お客さまの反応はすごくいいです。元々、キャンプでも木工でも入り口はなんでも良いから森や木に興味を持ってもらえたらいいと思っていたので、自分にとってすごく納得感がありますし、改めて木の強みを感じています。

町内で行われたイベントにも出店。木工製品の販売だけではなく、その場でレーザー加工も可能。「morinov」には「森をrenovation(刷新)する、森とinnovation(革新)をおこす」という意味が込められている。

―地域おこし協力隊の任期が終わりました。不安や心残りはありますか?

坂野:不安はそんなにないです。目標達成したという感じではありませんが、事業として自分はこんなことができるという自信が3年間でつきました。去年入籍したので、一人じゃないというのも心強いです。妻は丁寧にお客さんとやり取りができますし、自分の不得意なことを補ってくれています。任期中に販路拡大やWEBサイトの充実、製品の在庫をもっと作っておけば良かったかなとは思いますが、これから順番にやっていけばいいことなので少しずつ取り組んでいきたいです。

地に足をつけて一歩一歩進んでいくのが「ローカルベンチャー」

―LVSに挑戦してみようと思っている人に向けて、アドバイスをください。

坂野:「ローカルベンチャー」という言葉は画期的な言葉かもしれませんが、劇薬だとも思っています。どうしても「ベンチャー」と聞くと急成長が求められるのではないかと思いがちで、僕も「自分がやっていることはベンチャーらしくないかも」と焦って悩んだ時期がありました。でも、地道に少しずつ進んでいくしかないんですよね。華やかに急成長なんて無理です。地域の人との関係性をじわじわ作っていって、事業のプラスになることがちょっとずつ出てくるものなので、一気にバーンと成長していくわけがないです。だから「ベンチャー」という言葉に引っ張られすぎないことが大事だと思います。

―地域での事業を考えるにあたってのアドバイスはありますか?

坂野:地道で確実に稼げる既存の産業と、レバレッジが効く加速させられる何かの両方を常に考えておく必要があると思います。肉体労働の仕事だけではなく、体や時間をそんなに使わなくても効率よく稼げる何かを融合させるみたいな感じですね。僕の場合は、手彫りだったら5年10年は普通に修行が必要なところをデジタルの力を借りて木工製品を作っています。地域での事業を考える時、地道に稼ぐ事業だけでやっていけるのか不安になると思いますが、全体の収入をもっと盤石にすることが重要だと思います。
でも、体も時間も使わない効率のいい方だけを追及してしまうと「それ札幌や東京でやれば良くない?」となってしまいます。そこのバランス感覚が重要だと思いますし、両方をやることが地域でやる意味や強みになりますね。

―厚真町を選ぶかどうかを悩んでいる人にメッセージをお願いします。

坂野:地域おこし協力隊になる、ならないに関わらず、まずはぜひ厚真町に農業や林業のアルバイトをしに来ることをおすすめします。企業だとインターン制度がありますが、応募の前に働きながらいろいろ話を聞いておくと、ミスマッチがなくていいと思います。地域では、市場とは異なる価格で商品が販売されていることが通例となっていて、とても勝負できないこともあるので、ギャップに悩まないためにも情報収集は必要です。

―坂野さん自身、厚真町の林業に携わる人々との出会いが移住の決め手になったのでしょうか?

坂野:そうですね。僕も厚真町の林業に携わる方々と関わりがあった上でLVSに応募していて、自分が目指そうとしている方向で既に頑張っている林業分野の先輩方がいたこと、そして地元企業である丹羽林業さんも新しいことに寛容で、応援してくれることが決め手になりました。厚真町のように林業や木工が盛んな地域だったら普通なら新規参入は難しいですが、厚真町なら自分で新しいことができそうだと思いました。全国いろいろ見てきましたけど、厚真町のような地域はなかなかないですね。

LVS参加から3年間を振り返り、「たまたまタイミングが良かった」「ラッキーだった」と度々語る坂野さん。その偶然は坂野さんが地道に地域での関係づくりをしてきたことが手繰り寄せたのだろう。

―最後に坂野さんのこれからについて教えてください。

坂野:実は遠い未来のことは3年間の中であんまり考えたことがなくて、協力隊の任期が終わることは通過点でしかないですし、「これからが本番、やっとスタートラインだぞ」と思っています。最終目標は森の空間作りに変わりありませんが、とりあえず5年後には自分の森から出た木材で製品ができていることを目指します。シンプルですが、自分の森から出た木材で製品化まで一気通貫でやりたいです。直近ではまた町内外のイベントに出店したいですし、ワークショップも今年はどんどんやっていきたいと思っていますので、楽しみにしていてください。

―ありがとうございました。これからも坂野さんの夢を応援しています。

・morinov
https://www.instagram.com/morinov_sakano/

厚真町ローカルベンチャースクール2024
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聞き手・文:山口和秀(エーゼログループ厚真町支社)
      濱田真基子(厚真町地域活性化起業人)
写真提供:エーゼログループ厚真町支社



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