【北海道厚真町、起業型地域おこし協力隊募集中!】好きなことを仕事にする人は、他の人とは違うことをする「変な人」。それを受け入れてくれる仲間がいるからがんばれる。~楽しそうな匂いのする方へ。まずはやってみればいい~

2022年9月12日

2016年秋に開催された第一回の厚真町ローカルベンチャースクール(LVS)。そこに参加した西埜将世(にしのまさとし)さんのビジネスプランは馬とともに林業を行う「馬搬林業」。LVSの審査通過後2017年4月から2020年3月まで厚真町で起業型地域おこし協力隊として活動。現在も厚真町で事業を営む西埜さんの周りにはいつもたくさんの人が集まっています。そんな西埜さんの魅力は何か?西埜さんにとって思い出深い仕事、LVSのこと、起業家として歩むにあたって支えとなる存在、そして厚真町について語っていただきました。

厚真町は今年もローカルベンチャースクール2023を開催します。エントリーをご希望の方はこちらをクリックしてください。

馬には可能性を感じていた。ひとつひとつ広げてきた仕事の幅。

――協力隊として3年間、協力隊を卒業してから1年半。現在どのようなお仕事をされていますか?

西埜:まず林業に関することで言えば、夏場は植林現場の下草刈りをして、秋~翌年の春までは 森林所有者さんから依頼された森の間伐作業、択伐作業、風倒木処理、遊歩道整備などを行っています。現場で出てきた木を活用して、しいたけのほだ木や薪を作り販売もしています。春から秋にかけての馬たちの仕事として、馬で引っ張るプラウやカルチベーターという器具を使って、ブドウの木のすぐ脇を耕したり、除草作業を行っています。あとは馬糞の活用もしたいことからハスカップ栽培も始めました。

インタビューに答える西埜さん

 

――いろいろと始めているんですね。他にも教育関係でも活躍されている印象があります。

西埜:ありがとうございます。はい。厚真町の教育委員会からの依頼で月に3回程度、学童クラブの森林整備や子どもと馬の触れあいの場を提供する仕事をさせてもらっています。今年は新しく「馬と山しごとキャンプ」という企画で子ども3人を10日間受入れ、キャンプ体験を提供してみました。


――仕事の幅が広がっているようですが、LVSに参加した当時、このような仕事の広がりを想定していましたか?

西埜:まずは馬と林業から始めて、その後に、より馬を活かしていければと思っていました。馬と何かをすることの可能性は感じていましたが想定以上になっています。

厚真町教育委員会の依頼で馬と子どもが触れ合う時間を提供している(西埜さん撮影)

――それは何よりですね。厚真町で起業してからこれまでの間で思い出深い案件としてはどのような仕事が挙げられますか?

西埜:手稲区(札幌市)の現場ですね。森林を所有している大手企業から隣町の安平町の森のお仕事をいただいていたのですが、手稲でもやってみないか?と打診がありました。自分がそれまでにやってきた現場に比べればとても大きな現場ですし、ちゃんと終わらせられるかな?人にも手伝ってもらう必要があるし、その人たちに支払いをすると赤字になる可能性もあるんじゃないか?と思いました。でも、やってみなくちゃわからならいし、やってみたいと思ったので請けることにしました。

まずはやってみよう。でも、すごく大変だった手稲区の現場。そこでつながった多くの縁。

――不安があってもまずはやってみる。その姿勢が西埜さんらしいですね。実際にやってみてどうでしたか?

西埜: 本当に大変でした。まずは2人以上いないとできないので、当時厚真町の林業に興味を持っていた坂野君(坂野昇平さん、LVS2020に参加し2021年4月より厚真町で協力隊として着任し林業関連の事業に従事している)と、そのとき偶然うちに泊まりに来ていた旅人2人が林業の経験が少しあるとのことだったので手伝ってもらうことにしました。

――偶然旅人がいるというのも西埜さんらしさを感じるのですが、なんとか4人と1頭のチームになりましたね。

西埜:はい。馬も連れて行って山小屋で寝泊まりしながら作業しました。お金もかけられない状況だったので、お風呂は五右衛門風呂を自分たちで設置してお湯を沸かし入りました。経験が浅いから作業に時間がかかるのですが、節約のために自炊をして土鍋でご飯を炊いたりするので料理にも時間がかかる。そんな現場でした。

――大変な状況ですが、聞いていると楽しそうな雰囲気もあります。

西埜:そうですね。とても混沌とした状況で自分もいっぱいいっぱいになり、手伝ってくれた人に当たってしまったり。そんなことはあったのですが、楽しさもありました。多くの人が現場にきて面白がって関わってくれました。

――どのような人が関わってくれたのですか?

西埜:北海道大学の森林研究会の伊藤君(伊藤悠希さん、北大農学部森林科学科4年)は「現場近いから自転車で行きます!」といって来てくれましたし、西埜馬搬で現在協働型の協力隊として一緒に活動してくれている渡部さん(渡部真子さん、2021年6月より厚真町の協働型地域おこし協力隊として西埜馬搬で西埜さんの右腕として活動中)も来てくれました。

――以前、森林研究会の皆さんにインタビューしたときに「林業の現場がこんなに楽しいなんて思いもしなかった」と言っていました。

西埜:すごく賑やかな現場になりました。帯広から馬を2頭連れてきてくれた馬仲間もいましたし、お互い面白い変わった林業をしているとのことで10年以上前から交流のあった足立さん(足立成亮さん、outwoodsという名でフリーランスのキコリとして活動。木を切るだけではなく森林作業道づくりに取り組んでいる)もこの現場に来てくれました。そうやってたくさんの協力を得てなんとか終わらせた現場ですが、最終的には皆にお金を支払ったら自分の手元には残りませんでした。

――「赤字もありえる」と言っていたのが現実になってしまったのですね。

やってみたらどうなるんだろう?と興味本位でやってみたところもあるので、「やっぱりそうなったかあ」ですね。それで次の年も同じ現場をやらせていただいたのですが、足立さんは環境負荷の低い作業道を作ることができる方でしたし、木をつかむグラップル、木を引っ張るウィンチなどの重機も持っていましたので、2年目はそれらを組み合わせる形でやってみました。

――馬だけでなく重機とも組み合わせた。

はい。1年目はとにかく馬だけでやってみようと思いやってみたのですがとても苦労しました。林業の仕事は馬でやったからといって値段が上がるわけではなく、期限までにいかに効率的に終わらせるかが大事なので、そのようにしてみました。重機を使うことに少し葛藤はありましたが、道があることで馬が木を運ぶ距離が短くなりましたし、場所によってはウィンチで引っ張る方が効率的だったりと、馬と重機の得意不得意やそれぞれの特徴を理解する機会になりました。

足立さんと作業用林道をどう作るか相談中の西埜さん(右)奥には重機も見える


まさか。大丸札幌で「西埜馬搬展」開催!

――少し話が変わりますが、西埜さんの活躍と言えば大丸札幌での「西埜馬搬展(※)」が外せないのですが、それはどのような経緯で実現したのですか?

西埜:今お話した足立さんのご縁です。足立さんが大丸札幌の企画展を企画提案するお仕事をしていたことで、「西埜馬搬でどうだろう?」と声をかけてくれました。               ※2021年12月1日~25日、北海道札幌市の大丸にて「西埜馬搬展」の企画展示が行われた。

――なるほど。手稲の現場での共同作業がきっかけだったんですね。

西埜:はい。ただ「本当に大丈夫?」と不安に思いました。他にも馬を使って林業をやっている人はいますし、そういう人を集めた企画の方が良いのでは?と提案したのですが、最終的にはそれだと企画がぼやけてしまうからと西埜馬搬一本になりました。そうなったらなったで「まあ、いいか」と思いましたね。

――さすがの受入れ力です(笑)。準備期間はどのくらいあったのですか?

西埜:1か月半くらいだったんじゃないかと思います。最初は結構お任せで良いのかな?と気楽に構えていたのですが、写真や文章に加えて現場で使う道具の展示などもあり意外とこちらで用意するものが多かったんです。手稲の現場に入っているタイミングでしたし仕事も忙しく、苦労しました。でも、ここでも仲間が僕の話したことを文章に直してくれたり、写真を選んだりと準備を進めてくれました。

大丸札幌の「西埜馬搬展」でポニーが引っ張るリヤカーに乗り楽しむ子どもたち

――そうやってなんとか作りあげた大丸での展示。どう感じましたか?

西埜:「大きく見せすぎかな」と居心地の悪さがありました。

――そうなんですね。私なら「自分はすごいぞ!」とか思ってしまいそうです。

西埜:とんでもないです、全然すごくないです。今は馬と一緒に林業をやっている人が少ないから目立つかもしれませんが、一昔前はたくさんやっている人がいましたし、その人たちがやっていたレベルからすれば自分なんてまだまだです。

――謙虚というかなんというか、そういう反応が西埜さんらしいし魅力だなと思います。

西埜:もちろん知人からの反響も大きくうれしい気持ちもありましたし、百貨店なんていう、自分や林業現場とは全く違う世界で扱ってもらえたことで「馬搬」を広く知ってもらうことにつながったのは良かったなと思いました。

自分は「変な人」。それを多くの人が面白がってくれる。それが厚真町の良いところ。

――西埜さん自身のことをもう少し聞かせてください。西埜さんはいつもひょうひょうとしている印象があるのですが、悩んだりはしないのですか?

西埜:もちろん悩みはあるのですが、すごく悩む、悩みすぎることはないかもしれません。悩まないというか、考えられない。だからとりあえずやってみようと思うタイプです。やるかどうかの判断では、お金の計算は後です。楽しそうだなとか、次につながるかなとか、何かやりたい匂いのする方へ行くところがあります。

――手稲の現場がまさにそうでしたね。そしてたくさんの人が西埜さんのところに集まります。

西埜:いろんな人が集まってくれるのですが、何か手厚くもてなしたりは全然していなくて、むしろいろいろ作業をお願いしますし、お願いするときも細かいやり方を教えません。ただ、お願いするにあたってはちょうどその人にできるんじゃないかなとか、一緒に作業する人同士がつながるといいなと組合せを考えたりはしています。そうやっているうちにみんなくつろいで横のつながりができたりして楽しそうにやっている。子どもや馬が近い距離で一緒にいる空間というのも、いつもと違った感じで良いなと感じてもらっているのかなと思います。

日常生活の中に馬がいる様子

――少し時間が戻るのですが、2016年に参加したLVSは西埜さんにとってどんな場でしたか?

西埜:自分の中の迷いやあいまいな部分をすっきりとそぎ落としてくれる場でした。すごくたくさんの質問をされる中で、自分は馬と林業をしたい、そして馬がいることで可能性が広がるはずだとの思いが明確になりました。

2016年のLVSで他の参加者の発表を聞く西埜さん(一番手前)

――地域で事業を作っていく上で大事なことは何だと思いますか?

西埜:ねばること、です。すぐに結果がでないことを理解しておく。いきなり自分のやりたいことだけでうまくいくわけじゃない。少しずつ自分のやりたいことの割合を増やしていけばいいと思います。僕のやっていることは他にやっている人が少なく変に見えただろうし、協力隊の任期が終わったら地域からいなくなるんじゃないかと思っていた方もいると思うんです。でも、こっちは最初からそんな簡単じゃないと思ってやっていました。そうやって進めてきたら、協力隊の任期が終わるころから少しずつ認められてきたように感じます。

――地域の人に認められる。信頼関係づくりは大事ですね。

地域ってずっとついてくるものだから、コミュニケーションをあきらめないことが大事だと思います。相手がこちらに対して何か不満に感じているかなと思っても、逃げないで自分から聞きに行く。常に声をかけてもらいやすい関係性を作る。地域には手が足りていないことがたくさんあります。例えば下草刈りなんかは、本当に手が足りていません。そういうことを仕事にさせていただくことも、とても助かりますし、ありがたいです。

――厚真町という地域をどう感じていますか?

自分のやりたいことをやるって、他の人がやってないことをやることだから「変な人」だと思います。そんな変な人がたくさんいる。それを面白がって受け入れてくれる人が多い地域だと思います。LVSで同期の佐藤さん(佐藤稔さん、2016年のLVSに参加し「個人貿易」のビジネスプランで採択され、現在も厚真町で活躍中)や中川さん(中川貴之さん、2018年のLVSに参加し「林業・製材加工業」のビジネスプランで採択され、現在も厚真町で活躍中)なんかの存在は本当に心強い。前例がなくても「やってみればいいじゃん」そう言ってくれる懐の広さがある町だなと感じています。

――ありがとうございます。最後に今後のことを教えてください。

今ある仕事の質と効率もしっかり追及していきたいです。まだまだ馬についてもわからないことが多いから勉強していきたいですし、馬に活躍してもらう時間も少ないので増やしていきたいです。目の前のやりたいことをやれていて楽しいなと思っているので、これを継続する。どう面白い方向に進み続けるか?をがんばりたいと思います。

西埜さんの自宅前に設置されている西埜馬搬の看板

ローカルベンチャースクール2023 チャレンジをご希望の方はこちらをクリックしてください



#ATSUMA