小さな町で、自分らしく生きていく――厚真で育てた夢のかたち
2025年5月29日

厚真町にあるトータルビューティーサロン「Re:spec」。オーナーの柿崎幸恵(かきざきさちえ)さん。美容師としての経験に加え、アロマやカラーセラピーなどの幅広い知識と技術を活かしながら地域の女性たちを応援し続けています。厚真町に移り住み、子育てと仕事の両立に悩みながらも、自分の手で道を切り拓いてきました。「好き」と「得意」でつくりあげたサロンは、今や町の人々の癒しの場に。彼女の歩みは、どこにいても“何かを始めること”ができるのだと教えてくれます。
「やってみたい」をカタチにする生き方の選択
― 厚真町に移住されたきっかけを教えてください。
厚真町に移住したのは、夫が『農業をやりたい』と言いだしたことが最初のきっかけでした。
私は早来町(今の安平町)出身で、2歳の頃に苫小牧市へ引っ越しました。苫小牧市では美容専門学校を卒業後、結婚、出産、そして離婚を経験しました。再婚した夫の夢に触れ、「一緒に好きなことを始めるのもいいかもしれない」と思えるようになったんです。それが2013年の厚真町への移住につながりました。
当時、息子には自閉傾向があって、てんかんの持病があったのでお薬を飲んでいたのですが、副作用がひどく、学校に行けないことも多くて「薬」というものに疑問を感じていました。そんな時に夫が「思い切って薬をやめて、食べ物に気を付けたり、いっぱい寝たり。薬じゃない、身体にやさしい方法で整えていけたらいいんじゃないか。」と言ってくれました。でも自分の判断で薬をやめてしまって何かあったらどうしよう?という不安はありましたが、思い切ってお薬をやめて、食事や睡眠、運動など生活習慣の見直しを始めました。同時に自然療法やアロマといったナチュラルなケアを学ぶようになりました。そのタイミングで移住の話が出ていたので、自然が豊かで心が落ち着くような環境へと変えてみることもいいなと思い、家族みんなで厚真町へ来ることにしました。
初めての土地で始まった新しい生活でした。夫が就農してから、私は農業の手伝いをしつつ、自分にできることを探しました。私はもともと苫小牧にいた頃、エステサロンでまつげエクステの施術者として勤務していたので、女性の目元をついジッと見てしまう癖があるのですが、厚真にもまつげエクステをしている女性が人口の割に多いなぁという印象でした。夫と夫婦で農家をやるのもいいなと思って移住したけれど、やっぱり自分の「好き」を仕事にしていきたいって気持ちが膨らんでいき、夫に相談したら「自分のしたいことに家族ごとついてきてもらったから、それだけで十分だよ!だから、やりたいことをやりなよ!」と快く応援してくれました。そして、2015年トータルビューティースペースRe:spec(リスペック)を立ち上げました。

―お店の名前にはどんな意味が込められていますか?
店名「Re:spec(リスペック)」には、私の大切な想いが込められています。
「Re:spec」という言葉は、ジャマイカのパトワ語で「感謝」や「尊敬」、そして「堅い絆」を意味する言葉です。地域の方々とのつながりを大切にし、感謝の気持ちを忘れずに歩んでいきたいという想いから、この言葉を選びました。また、英語の「Re:」と「spec」にも意味を込めています。「Re:」には“再生”や“再構築”といった前向きな意味があり、「spec」には“機能”や“特性”という意味があります。お客さま一人ひとりの本来の美しさや輝きを、引き出したい。そして、心も体も若々しくいられるお手伝いができる、そんなサロンでありたいという願いを込めました。地域の皆さんとの絆を育み、感謝の気持ちをカタチにする。そんな温かい空間を育てていきたいと思っています。サロンでは、まつげエクステ、ラッシュリフト、ひかり脱毛、ひかりフェイシャル、アロマタッチケア、セルフホワイトニング、和装レンタル・着付けまで幅広く提供しています。お客様からはありがたいことに「Re:specでこんなこともできたらいいな」などとリクエストをいただくことも増え、ました。お客様の理想のサロンに少しでも近づけたらと、学びの場にも積極的に参加していました。目元や身体に直接使うものなので、オープン当初から商材には安心して使える身体にやさしいもの、できるだけ地球環境にやさしいものを選んでいます。

揺らぎの中で見つけた「強さ」
―移住してからの起業と家庭、子育ての両立について感じていることはありますか?
2018年には北海道胆振東部地震があって、夫の農地が使えなくなってしまいましたが、幸いにもここのサロンは無事だったので、ひとりでもどうにか稼いでいかないと…と気持ちだけが焦っていました。何をしたら喜ばれるだろうと毎日のようにインターネットで調べては、色々な勉強をして資格も取りました。カラーセラピー、コーチング、アロマセラピーとか。自分でも何を目指しているのかわからなくなっていましたね。ただ、とにかく今は私が生計を立てていかなくてはいけないという思いがとても強かったです。
震災やコロナなど、社会の揺らぎのなかで、大変なことはたくさんあったけど、家族との絆は深まり、私の中で「命の尊さ」、「健康であることの大切さ」をじっくりと考えるきっかけになりました。
厚真町の人たちはとても温かいんです。震災の時にその温かさに何度も救われました。当時は町民みんなが協力して支え合っていました。全員が被災者なのに、みんなが誰かのためを思って動けていました。特に商工会女性部の炊き出しには私もできる限り参加させてもらいましたが、先輩たちのパワーにはいつもすごいなぁと思っていました。現在商工会女性部副部長をさせていただいていますが、今でも先輩方に助けてもらいながら、励まされながら、自分らしい生き方を一歩ずつ築いている途中です。

―厚真町で暮らす中で、町の印象は、移住前と比べてどう変わりましたか?
厚真町は、私にとって“自分の可能性”を試せる場所になりました。美容サロンの経営だけではなく、町内外のイベントへの出店、健康や環境に関する発信、特に子育て世代、これから親の介護が待っている私と同じ世代に寄り添えるような自分になりたい。そして、町全体がもっと元気に笑顔で暮らせる場所になったらいいなと思っています。子育てや介護も、少しでも気楽に楽しくできたらいいなって。

―お子さんたちは今、どんな生活をされていますか?
上の息子は地域政策を学ぶために函館の教育大に進学し、一人暮らしをしていました。
地震があった時に役場の人たちが自分も被災しているのに町のために働いている姿を見て、「自分も地元の役に立てる仕事がしたい」と行政の仕事に憧れを持ったみたいです。震災の経験が進路に影響したと思います。2番目の息子も地震で救助された経験がきっかけで消防士に。最初は迷っていましたけど、周りの後押しもあって決心したようです。
—震災はご家族にとって大きな転機だったんですね。
つらいことも多かったけど、人とのつながりや命の大切さを改めて実感しました。子どもたちの進路にも影響を与え、家族の絆が深まるきっかけになりました。
―最後にこれからやってみたいことや、目標はありますか?
健康的に自立した生活ができる「健康寿命」を延ばすことができるようなサポートですね。それから、子育てや介護が“しんどい”じゃなく、“ちょっと楽しい”になっていくようにしたいです。アロマや自然療法の力で、病院に行く前にできることを広めていきたいです。そんな活動をこれからも続けていくつもりです。
私、もともとは“自信がない人”だったんです。でも、“やってみようかな”って動いたら、周りに支えてくれる人がいて。できることをちょっとずつ積み重ねたら、気づいたらここに立っていました。

―ありがとうございました。これからも柿崎さんの夢を応援しています。
挑戦するって、柿崎さんにとってはこれまでの人生の中で選択してきた結果であって、自然なことでした。そして、柿崎さんの一歩一歩は、確実に町に小さな変化を生んでいます。厚真町で、自分らしく生きる人がいる。そんな姿が、誰かの「やってみよう」のきっかけになりますように。
柿崎さんの経営するRe:specの詳細はこちら。⇓
ホームページ:https://respec-atsuma.com/
Instagram:https://www.instagram.com/respec_9.totalbeautyspace.9/
【クレジット】
取材対象者:柿崎 幸恵さん 職業:アイリスト
聞き手・文:山口和秀(エーゼログループ厚真町支社)
写真提供:エーゼログループ厚真町支社