一度は中止にした厚真町ローカルベンチャースクール。 やはり再起動することにしました。

2018年10月31日

厚真町では3年前から、町での新規事業を生み出す支援策としてローカルベンチャースクール(以下、LVS)を実施し何名もの起業家を生み出してきました。今年も次のローカルベンチャーを発掘する為、エントリー者を募集していました。
その最中、9月6日北海道胆振東部地震が発生。
LVSは町外からのエントリー者も歓迎する内容であることから、町に住む方々の復旧が完了する前に開催することは困難と考え、一度は中止するとの判断を下しました。しかし、発災から2カ月が経とうとしている今、改めて厚真町はLVSの再起動を決断しました。
その決断に至るまで、そして決めた今の想いを厚真町役場のLVS担当者である私、宮が書かせていただきました。

地震発生と中止の決定

9月6日午前3時7分に発生した最大震度7の地震は、厚真町の様子を大きく変えました。電気、上下水道、道路等のインフラに加え、住宅や農地・山林等の個人資産は深刻なダメージを受けました。失われた尊い命は36名(北海道全体では41名)にのぼり、家に住むことが出来ずに、避難所での生活を余儀なくされた町民はピーク時には1,100人を超えました(今なお240名の方が避難所生活を送る。10月13日現在)。

地震発生直後は、夜明け前だったことや土砂崩れにより道が行き止まりとなっていたこともあり、厚真町役場では町内の被害状況の把握がなかなかできませんでした。夜明けと同時に、続々と集まる被害状況報告は人命に関わるものを含め、どれも想像を超えた深刻なもので、心を暗く重くするものばかりでした。「まずは、人命救助。その後の復旧作業。住民の皆さんの生活を少しでも早く安定させる。」そのことだけに意識を集中し次々に押し寄せる仕事に向き合いながら、「厚真町ローカルベンチャースクールは、今年度は中止せざるを得ないだろう」という考えは自然と心に浮かびました。「町民の皆さんの生活もままならない中、LVSは出来ない」という思いに加え、移住希望の皆さんに、「どうぞ厚真に来てくださいと心から言えない」という思いが強くなりました。

これまで、町外の皆さんに向けてLVSの説明をする時は、いつも真剣に厚真町の現状や可能性について話してきました。また、町を舞台に挑戦するローカルベンチャーの皆さんが、自分自身の未来の夢を実現するために、懸命にかつ生き生きと活動する姿を目の当たりにすることで、LVS事業の意義と可能性に自信を持つことも出来ました。厚真町の特色としてよく使わるフレーズ「新千歳空港や大きな街に近い便利な田舎。道内では比較的温暖で、雪も少なく過ごしやすい気候。ダムもできたことで水害への備えも完了し、災害も少ない安全な町。財政面も道内では比較的健全な町。そのような風土に根を張った、温かな町民気質。厚真町に現れ始めたローカルベンチャー(挑戦者)の皆さんの魅力的な事業の数々。」厚真町は素敵な町だと本気で思えるからこそ進めてこられたLVSですが、今回の地震でそれらは大きく変わってしまいました。そのため、参加者の皆さんの人生に大きく関わるLVSを、担当者として今年度開催する自信が無くなってしまいました。

変わらずあり続けるもの

地震直後に混乱や不安を抱えながら、なんとか避難されてきた町民の皆さん。しかし、役場の周辺は多くの関係機関やマスコミ、空を飛ぶ複数のヘリコプターの音で喧騒に包まれていました。そんな状況においてなお、町民の皆さんは役場職員に対し温かい言葉をかけてくれました。「無事だったんだ。良かったね。食べるものあるの?少しは寝れてるの。頑張ってね。」自ら大きな被害を受けつつも、こちらの身を心配しつつ笑顔を向けてくれる優しさと強さは、とても励みになり気持ちを前向きにしてくれました。

避難所の様子

また、役場内の雰囲気も地震前と大きく変わらず、根底では落ち着きを保っており、懸命に役場機能を果たしていました。それを支えていたのは役場の中に流れる、どんな時でも相手の話をまずは聞くという基本姿勢と、町長、副町長を初めとする上司たちの落ち着いた言動、そして部下や仲間を思いやる気持ちがあり続けたことだったと思います。地震から一月を経て、日増しに役場は地震前の雰囲気に戻りつつあります。

そして、これまで挑戦を続けていたローカルベンチャーの皆さんも、活動を再開されています。小林農園さん(小林農園復興記録ブログ)や、炭窯が全て壊れた鎌田木炭さん、現役の地域おこし協力隊や、地域おこし協力隊の卒業生達も生産基盤の再建に向けて活動を始めています。彼らの震災から立ち上がる姿は、ローカルベンチャーが新たなローカルベンチャーを呼ぶ。」、「人材の好循環が始まろうとしていた厚真町の取り組みを終わらせてしまってはいけない。」と気付かせてくれるものでした。

小林農園さんの復興記録より

思い起こすとLVS担当者として、厚真町でLVSをやりたい、やれると思ったのは、町に住んでいる皆さんと役場の雰囲気がとても魅力的だったことが大きな理由でした。そして、その想いに気付かせてくれた上で、受け止め力を貸してくれたのはエーゼロ株式会社の牧さんでした。これまで大切にしてきたもの。厚真の風土が培ってきた気質。そして応援してくれる多くの方々。「地震によって厚真は大きく変わってしまったけれど、大事にしてきたものはまだ沢山残っている。」もう一度、自分自身がLVSと向き合うことに決めました。

厚真町LVS再起動

地震から一月以上たった今でも240名の方々が避難所で生活され、仮設住宅への入居については140件を超える申し込みがありました(10月13日現在)。また、町内の一部では断水も続いています。住民の皆さんの生活再建に、町として全力で取り組むということは今後も変わりはありません。一方で、住民の皆さんの生活を支えていくためにはハード的な整備に併せて、ローカルベンチャーを含めた町外の皆さんの力をこれまで以上に町に取り込むことが必要だと思っています。このことの重要性は、2016年に設立したローカルベンチャー推進協議会(以下、協議会)を構成する東北(釜石市、南三陸町、石巻市)や、石川(七尾市)、熊本(南小国町)で被災した市町の、復興していく姿が証明してくれています。住民の皆さん、町外の皆さんがLVSの開催に対しどの様に思われるのか、自分自身分からない部分がありつつも、厚真町には今こそLVSが必要なのだという強い思いがあります。

そして、LVSの開催に向けて、強い確信を持てるモノがもう一つあります。それは、LVSに関わる人の温かさが厚真町において維持され続けていることです。厚真町民、町の先輩ローカルベンチャー、役場職員、エーゼロ、そして協議会からの支援もこれまで以上に強く感じます。私達はきっと新たなローカルベンチャーの皆さんにこれまで同様、向き合い寄り添い、切磋琢磨していける。地震後の厚真町に「変わらずあり続けるもの」が有るからこそ、今はそう思えます。

地震を経て、厚真町の環境は大きく変わりました。これまで時間をかけて築いてきた大切なものも大きく傷つきました。しかし地震自体は、超長期的にみると厚真町を形作ってきた自然の営みの一部でもあります。厚真町で実施されてきた埋蔵文化財の発掘調査によると、約4000年前に今回の地震に近い規模の地震が発生していたことが分かっています。厚真町は過去にも大地震を経験し、そして現在があります。地震も含めて、自然と共に生きる町として進んでいくことが、これからの厚真町の進む方向だと思っています。厚真町が地震前の姿に戻ることは有りません。ただ、今回の地震を力に、新しい価値を生み出していくことは出来ます。

だから、今年度、厚真町ローカルベンチャースクールを改めて開催することにしました。あなたの本気の「やりたい!」を厚真で聞かせてください。無理に「厚真町の為に!」となる必要は有りません。今の厚真町を知った上で、厚真を選び挑戦してくれることが、何よりも尊いことだと思います。これからの厚真町の未来を形作る皆さんの「やりたい!」を心からお待ちしています。



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