※本記事は平成30年9月6日に発生した北海道胆振東部地震の前にまとめられたものです。地震後の取り組みについては、改めてご報告する予定です。


7/4~5の2日間、とある建物の調査のため、こちらの記事でもご紹介した、北海道建築の第一人者である札幌市立大学の羽深教授が学生6名と共に厚真町を訪れました。その、とある建物とは100年以上前に建てられた古民家。町が進める「古民家移築再生事業」の次回候補に挙がっている1軒です。
今回はこの調査の様子をお伝えします。

厚真町役場で町や観光情報のレクチャーを受けた後、さっそく彼らが向かったのは、次回の移築候補に挙がっている古民家です。「古民家移築再生プロジェクト」のリーダーである厚真町役場の大坪さんと共に、まずは建物の内部を見学します。
玄関から1歩中に入ると、広間の天井には存在感抜群の太くて長い横梁を中心に、様々な太さの梁が張り巡らされていました。これは「枠の内」という伝統的な枠組構造。非常に丈夫な造りとなっており、富山県内に多く見られた「越中造民家」という民家タイプの特徴です。
学生の皆さんからも「立ったり座ったり、視点をちょっと変えるだけで見える景色が全然違う」、「天井の広さがすごい」といった声が上がります。

「枠の内」と呼ばれる伝統的な枠組構造

続いて向かったのは、今後の工事を計画している、古民家移築再生事業2棟目の「旧山口邸」の建設候補地です。移築を計画している場所は、一昨年移築した1棟目の古民家で現在はパン屋「此方」さんに生まれ変わった「旧畑島邸」のすぐ奥。今回の調査の時にはまだ何もない草むらの状態でしたが、学生の皆さんは羽深教授の説明を聞いてメモを取ったり、隣の「此方」さんと比べながら写真を撮ったりして、移築された際のイメージを作り上げているようでした。

今年の8月から工事が始まる、事業2棟目「旧山口邸」の移築予定地

学生さんたちは今回の調査をもとに2つのプランを企画立案し、後日授業で発表することになっています。ひとつが、現在の場所から候補地までどうやって移築し再生を行うかという「移築プラン」、そしてもうひとつが、移築後その古民家をどのような場所にしていくかという「活用プラン」です。
学生さんにお話を伺うと、
「構造や枠組み、調度品を生かしたプランにしたいな」、「歴史ある建物なのでデザインや関わり方が難しいよね」、「雰囲気の良さだけを前面に出すと他の町と一緒になってしまう。厚真の古民家ならではの良さを生かすにはどうしたらいいかな?」、「観光客は建物自体の歴史を知っていて来るわけではないので、ストーリーを伝える方法を作ったらどうだろう。あとは知りたくなるようなきっかけを用意するとか」といった意見を聞くことが出来ました。

パン屋として生まれ変わった旧畑島邸も見学。実際に活用されている様子を見ながら想像を膨らませていきます

羽深教授は言います。「この150年間、北海道経済を支えてきたものは農業なんですよ。だからこそ僕は北海道に残されている古民家、つまり農家住宅を大切にすべきだと思っています。そして歴史を伝える、良いものを真の意味で守っていくには、ただ保護するだけではなく使い続けていくことが重要です。実際、海外の歴史ある建物は修繕を行いながらきちんと活用されていますから」

町内に現存する古民家には、北陸地方から開拓民として厚真町に移り住み、この地に根をおろした人々、先祖が建てた大切な家を守りぬいた人々、そして今その歴史を未来へ引き継ごうとしている人々の思いが詰まっています。
今回の調査は1泊2日という短い期間でしたが、こういった思いは若い彼らにどう伝わったのでしょうか。一体どのようなプランができあがるのかとても楽しみです。



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