栄養士からパン屋さんへ。好きなことを仕事にして、忙しく働くみなさんの役に立ちたい。

2023年11月10日

北海道厚真町では起業型地域おこし協力隊を募集しています。(2023年度の募集は終了しました)

本記事では、パン作りの魅力にはまり、好きなことを仕事にしてしっかり稼いで自立することを目指している宮野和美(みやのかずみ)さんの事例を紹介します。理想のパンを追求し、試行錯誤を繰り返す宮野さんの姿には地域で起業を目指す人にとってのヒントがあります。 厚真町の住宅街の一角にある小さなお店。北海道産小麦と自家製酵母、地域の野菜や果物を使ったパンやお惣菜を販売しているパン工房Chillin’(チリン)です。栄養士として厚真町役場で勤務した後、パンを焼くことに夢中に。以前から料理が好きだったこともあり、栄養士の経験を活かしてパン屋さんを開業した宮野さん。好きなことを仕事にするまでの道のりを伺いました。

大好きなこと、やりたいことを仕事にする!家族や周囲の後押しもあって実現したパン屋さん

――これまでの経歴を教えていただけますか。

高校生のころから料理が大好きで、短期大学で栄養士の資格を取得して厚真町役場に就職(入職)しました。就職のタイミングでお隣の苫小牧市から厚真町へ移住し、栄養士として7年半勤務しました。

――なぜ栄養士になろうと思ったのでしょうか?

私の母はお菓子やパンを作ってくれていましたし、祖母も料理が上手でした。その影響もあって料理がすごく好きになり、自分でも作れるようになって料理の仕事をしてみたいと思っていました。高校生のころに吉本ばななの小説「キッチン」を読んで、栄養学という言葉を知り魅力を感じて栄養士を目指すことにしました。

――栄養士はどのようなお仕事ですか?

厚真町役場では栄養士として乳児健診、歯科検診などを中心に担当していました。栄養のこと、おやつの食べさせ方、離乳食のことなどあらゆることをお母さんたちへ教えていました。お手紙を通してやり取りしたり、時にはご家庭に入っていったりして、ご家族みんなで「この子の食をどうしようか?」と話し合ったこともありました。成人の方を対象とした、住民健診後の生活習慣病予防や改善のための栄養指導、高齢者を対象とした誤嚥防止の食べ方、ご家族への調理・栄養指導と、乳幼児から高齢者まで幅広く担当していました。栄養士の仕事はゆりかごから墓場までと言われるくらい幅広い仕事です。

やさしい笑顔を絶やさず、お店を一人で切り盛りする明るい宮野さん

――なぜ、退職されたのですか?

栄養士の仕事をしているときに体調不良になり、体力的に限界を感じていて退職しようかな?と考えていましたが、仕事って辞めちゃダメなものだと思っていて悩んでいました。そうしたら、夫が「辞めてもいいんだよ」って言ってくれて。その時にすごく気持ちが楽になって、じゃあ一回休もうと退職することにしました。

――旦那さんの一言で解放されたんですね。その後のことも教えてください。

退職後、出産して子育てが少し落ち着いたタイミングで厚真町役場から栄養士が足りないので臨時で手伝って欲しいと依頼を頂き、検診の指導と保育園の給食の献立作りの手伝い、学校給食のアレルギー対策を担当していました。ある時、友達に自家製酵母パンの作り方を教わったことがきっかけでパン作りにはまりました。作り方を習ってからは、面白くて、面白くて。毎日、無我夢中になってパンを焼いていました。パンを焼くことが止められないくらい好きでした。自宅のオーブンを買い替えるときも、安くてコンパクトだけど中が広くてパンを焼くのに適している。そんなオーブンを探しました。とにかくパンを焼くことに夢中でした。

酵母を勉強するために此方(こち)さん(厚真町で営業中のパン屋さん)の教室へ行ったり、作り方を学ぶために色んなお店を見てまわりました。その時にパンには個性があっていいんだ、ふわふわしていて甘くて白くて丸いだけじゃなくていいんだ、と気づき自分なりのパンをやってみたくなってどんどんとのめり込んでいきました。たくさん焼いたパンを家族や友達に配ったところ反響が良くて、たくさんの人から「売った方がいいよ!」と言ってもらうことが出来て、すごく嬉しかったですね。でも最初は全然自信がなくて、お金を頂けるようなものではなかったんですけどね。 家族が「そんなに好きなら出来るところまでやってみたら?」と言って応援してくれたのでパン屋さんに挑戦することにしました。町の起業化支援事業の話もあったので活用させてもらいました。

――パンを作るうえで宮野さんのこだわりがあれば教えてください。

食品添加物のこと、アレルギーのことなど体にあまり必要じゃないものや体に溜まりやすくて病気を引き起こしてしまう原因になりがちなものがある程度分かります。なので、そのようなものはなるべく使用したくないですね。化学調味料や化学的な食品添加物は使用せず、かつ自然のもので作れる自家製酵母にこだわろうというところからスタートしています。北海道産の小麦を使うことには最初からこだわりたかったですし、できるだけ厚真町や近隣の農家さんの育てた野菜などを使っています。

使用した原材料だけではなく生産者のことも記載したカードを商品に添えて渡す

――開業して5年。理想のパンに近づいていますか?

自家製酵母の扱いがうまくいかなくて苦労しています。酵母のコンディションをしっかり整えないとうまくパンが焼きあがらないことを痛感しています。特に温度、湿度の管理にはかなり神経を使います。オープンしてからも何回も失敗しています。酸っぱくて硬くておいしくなかったり、思い通りにふわっと焼けなかったり。自家製酵母パンの作り方の本を何冊も買って、読んで、自分で試して、それを繰り返してやっと自分で出来る方法を見つけました。なかなか思うようにいかず精神的にきつかった時もありましたが、好きなことなので向き合ってやるしかない!と思って頑張っています。焼き上がりが一定じゃないのはどうしてなんだろう?っていう気持ちもありますが、サンドイッチや総菜パンの場合、中身の具を工夫することでお客さまはそこに興味を持って面白がってくれるところもあるので、それはそれでいいかなとも思ったりします。どう焼き上がるのかを悩みすぎるより見た目や使いやすい包装だったり、そういったことを考えて喜んでもらえるようにすることが楽しいです。

Chillin’(チリン)のパンの秘密、コンディションの管理が難しい自家製酵母

北海道胆振東部地震がきっかけで変わった考え。やりたいと思ったらやった方がいい。

――起業と雇用との違いはどんなところですか?

起業するならその事業の稼ぎで自分が生活できるくらいまで頑張らなきゃダメだなって思いますね。雇用されれば確実にお給料としてもらえて、ある程度安定して生活は出来ると思います。起業すれば、やるかやらないかもすべて自分で決めて進めていけるので、自由度が高くやりやすいと思っていました。でも今はその自由度の高さよりも、しっかり稼いで自立しなきゃダメだなと思うようになりましたね。

――開業した2018年の9月には北海道胆振東部地震がありました。何か変化はありましたか?

地震の前はお店を始めたばかりでしたのでただひたすらパン作りのことばっかり考えていました。酵母のコンディションを整えるにはどうしたらよいかとか、添加物を控えるにはどうするかとか、食材をどこで調達しようとか。 でも、地震を機に、この先何が起こるか分からないから何事においても、自分が今やりたいと思うことを悔いが残らないようにやって生きていった方がいいと、強く思うようになりました。

――以前、お惣菜やお弁当作りにも挑戦したいと言っていましね。現在はどのような状況ですか?

もともと料理が好きでお惣菜づくりはやってみたかったんです。パンはすべて手で作っているので疲労で手が痛くなってきて、お医者さんからは今はなんともないけどこの先の事を考えて少し休むように言われました。そんなこともあってお惣菜作りも始めました。パンを楽しみに来られるお客さまも多いのでパンの販売も続けています。 コンセプトとして、子育てや仕事で忙しいお母さんたちの役に立ちたいという気持ちを常に持っています。そして実際にそんな立場のお母さんたちが、パンや総菜を選ぶときの顔が楽しそうにキラキラしているんです。これからもずっとそういう姿を見せもらえる場にしたいと思っています。

地域の野菜をふんだんに使った色とりどりのお惣菜

――これからの目標を聞かせてください。

パンや総菜を販売していくことを続けられる方法を常に模索しています。どこまで続けていけるか分かりませんが、自分に無理のかからない範囲でやり続けることが目標です。惣菜や弁当の販売を通して、介護や子育てをしながら働く忙しいお母さんや一人暮らしの人など、いろいろな人の役に立てるようになりたいです。町内の方が散歩がてら気晴らしに、たわいもない話をしに気軽に立ち寄れるお店。そんな場所にしたいですね。

ありがとうございました。これからもおいしいパンや総菜づくりを応援しています。

地域で起業していくうえで、なかなか思うようにいかず苦労をすることもあります。だからこそ「自分の好きなこと」を起業の種とし、試行錯誤や学ぶことを楽しむことが大切だと思います。

厚真町で好きなことや得意なことを活かして起業に挑戦してみませんか。

今やりたいと思うことがある人はぜひ、厚真町ローカルベンチャースクールへエントリーしてください。お待ちしています。 【エントリーの締め切りは2023年11月27日】

店舗営業の他に町内外のイベントにも積極的に出店

近隣の農家さんから仕入れた野菜や果物を使ったパンとお惣菜を販売しています。食材を通して季節を感じることが出来ます。

パン工房Chillin’(チリン)は店舗での営業の他、町内外のイベントに出店することも多いので営業情報はこちらをご覧ください。

Instagram自家製酵母と道産小麦 パン工房 Chillin’

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店舗営業日は店舗の前に出ているこちらの看板が目印


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