【地域おこし協力隊を目指す人、必見!】起業型地域おこし協力隊とお金の話。専業、兼業、起業、就職。北海道厚真町の森だからこそ育まれる林業の可能性。

2022年11月15日

北海道厚真町では、2016年から起業型地域おこし協力隊を募集しています。そこで採択された人のうち3名が「林業」に関わる起業案でした。そのうちの2名はすでに協力隊の任期を終えており、2名とも厚真町で林業者として自立しています。なぜ、自立できたのか?どのように自立したのか?地域おこし協力隊として地域に入り、起業し自立するために必要なお金の話。厚真町における林業での2つの起業事例をもとに、専業、兼業、就職、起業と、森と関わり自立するための可能性を解説しました。

厚真町は今年もローカルベンチャースクール2023を開催します。厚真町で森や木と関わり起業へチャレンジしてみたい方はローカルベンチャースクール(LVS)にエントリーをお願いします。

エントリーをご希望の方はこちらをクリックしてください。

地域おこし協力隊として、3年の任期終了後を考える。

厚真町では「起業型」の地域おこし協力隊を募集しています。「起業型」というからにはそれぞれが起業するための「事業計画」、計画とまではいかなくてもなんらかの「案」や「想い」を持ってくることになります。そしてその審査を行う場が「ローカルベンチャースクール(以下、LVS)」です。

2016年より開催されているLVSで通過し協力隊となった人が14名(2022年10月時点)です。そのうちの3名が「林業(森)」に関わるものでした。地域おこし協力隊の任期は最長で3年。厚真町に限らず全国の自治体が地域おこし協力隊を受け入れていますが、協力隊の任期後、地域に残れるのか?は課題です。前述の3名のうち2名はすでに協力隊の任期を終えていますが、2名ともに林業家として自立、独立しています(残りの1名は2022年10月時点で協力隊の任期中です) 。

LVSで事業プランを発表する様子

LVSで2016年に採択された西埜将世さんと、2018年に採択された中川貴之さん。林業家として独立するために協力隊としてどのように活動したのか?それぞれの人柄や考え方については過去に取材した記事をご覧ください。

西埜将世さんの記事はこちら

好きなことを仕事にする人は、他の人とは違うことをする「変な人」。それを受け入れてくれる仲間がいるからがんばれる。~楽しそうな匂いのする方へ。まずはやってみればいい~

中川貴之さんの記事はこちら

何にもないんだから人がやらないことをやるしかない。やったことないことばかりやってた「木の人」、中川貴之さんの厚真町での3年間。

本記事では事業を軌道に乗せる上で必要となる「お金」の側面を掘り下げます。

事業資金の集め方。ローカルベンチャーと都会のベンチャーの違い。

地域おこし協力隊として活動することで月額20数万円が自治体より支払われます。加えて、なんらか活動に必要となる機材の購入や家賃の補助として年間で約100数十万円の活動費も活用できます。概算で年間約480万円、3年で1,400万円ほどが扱えます。もし、起業しようとして銀行に行き「1000万円貸してもらえるか」というと、過去に十分な経験や実績が無ければ貸してもらうことはできないと思います。この協力隊としてのお金を「地域での生活のためのお金」と捉えるか「事業の軍資金」として捉えるか?起業家として事業を推進するのであれば、後者で捉えることが必要です。

都会で「スタートアップベンチャー」と呼ばれる企業は、事業アイデア(なんらか新規性や成長性がありそうなもの)に対して、投資家から事業資金を集めます。そのようなことができるなら、そのお金で挑戦すれば良いです。そしてサービスや商品の提供開始に向けた準備期間、事業が軌道に乗るまでの期間は、収入よりも支出の方が多くなり日々資金は減っていきます。最初に集めた資金が残っている間に事業を軌道に乗せていく。起業家はそういう挑戦をしていると考えてください。

一方、ローカルで、地域おこし協力隊として、となると一般的には上述のスタートアップベンチャーのように、いきなり投資家からお金を集めることは叶いません。協力隊の活動期間をしっかりと活用し、なんらかのビジネス仮説を実証した後であれば、その実証結果を信用として、投資家から資金を集めることはできると思います。都会であれローカルであれ、起業するにはお金がかかりますが、なかなかお金は出してもらえない。一方で各地方自治体では地域の活性化や仕事作りのため、起業家(ローカルベンチャー)を増やしたい。だから、自治体が「地域で起業を目指す人(ローカルベンチャー候補)に地域おこし協力隊の制度を利用し、お金を出す」。それが起業型地域おこし協力隊、ローカルベンチャーへの投資・育成の基本的な考え方です。

事業継続資金と投資。いかに安定的な収入を得て、未来へ投資するか。

事業は始めることよりも「続けること」が大切です。そのためには「確実に手に入る安定的な収入」が欲しいところです。そういった収入を起業前にめどをつけてあれば安心ですが、多くの場合は最初の資金だけで始めます。いかに早く安定的な収入にめどをつけるか?は事業継続に向けて非常に重要なポイントとなります。

その点において、厚真町の林業では、ある程度確実にお金になる仕事として、植林や植林した木を育てるための下草刈りといった「造林」の仕事があります。植林や下草刈りはその面積によって収入が得られます。ですので、時間をかけてやればある程度のお金を稼ぐことができます。中川さんの場合は、途中休憩をはさみながら朝5時~夕方17時くらいまで植林をすることもありましたし、夏の日が長い時期には19時くらいまで作業をしたそうです。西埜さんも地域の中で困っていること、必要とされていることがあり、それを行うことが収入になるのはとてもありがたいことだと、以前取材した際に話してくれました。

植林現場の様子(写真中央は中川さん)

協力隊の収入に加えて、造林の収入があると、お金を余らせることができます。この余らせたお金をどうするか?貯金するか投資に回すか、です。起業家であれば投資です。協力隊の任期は最大3年で終わることが決まっています。余ったお金で何かに投資しなんらかの「資産」にする。任期終了後にはその資産がお金を生むように挑戦する。資産は置いておけば勝手にお金になるのではなく、しっかりと使いこなす必要もあります。

西埜さんは「馬」に投資しました。

「馬と一緒に林業がしたい」とLVSで発表し、協力隊として着任後にすぐに馬を購入し林業の現場に馬を連れていきました。普通の林業をするのであれば、チェーンソーや草刈り機といった機材があれば始められます。それに比べれば「馬」の購入や餌代を含め「普通なら必要ないお金」を「投資」しました。馬とともに森に入り作業するには馬に動いてもらうためのスキルも必要ですし、馬との信頼関係構築に時間もかかります。そうやってお金と時間をかけることで、西埜さんには「馬がいること」による「付加価値」があり、教育現場などから「林業以外」の仕事にもつながっていきました。

切った木を馬で運びだす様子(写真一番左、馬の手綱を引くのが西埜さん)

中川さんは「木工機械」に投資しました。

中川さんの作業場には昭和の時代の木工機械が並んでいます。このひとつひとつは北海道各地の林業の先輩たちが年齢を重ね仕事をやめるときに、譲り受け購入したものです。中川さんは企業の中で林業に携わり、様々な個性を持つはずの木が全部まとめて燃料や紙の原料になってしまうことを残念に思っていました。できることなら、それぞれの木の個性を活かして消費者に届けたいと、LVSに参加したときから話していました。木工機械をそろえていくことで一本一本を大事に自分で加工できるようになりました。木工機械を購入し、使いこなすことができるようにお金と時間を使いました。

昭和の木工機械が並ぶ中川さんの作業場

2人の取り組みや考え方の詳細は、ぜひ前述の記事を参照していただければと思います。

投資という観点で、馬や木工機械といった事例を揚げましたが、ビジネスをする上でもうひとつ投資すべきことがあります。それが「人間関係」です。人間関係は2つあります。ひとつは「お客さんとの関係」、もうひとつが「地域の人との関係」です。ローカルの場合は都会に比べてより「地域の人との関係」に投資する必要があります。「あの人に仕事を出そう、出してあげよう、あの人から買おう、応援してあげよう」、そう思ってもらえるような関係をいかに作るか。外に出ることが大事です。地域の困りごとを手伝う。地域の中で働いている姿をしっかり見せる。そういった小さな積み重ねを丁寧に行うことです。例えば、造林の仕事にしてもいきなり元受けの立場で仕事を回してもらえることはありません。しっかりと森に関する経験と関係性を重ねていくことでチャンスが回ってきます。

地域で起業し事業を続けていくために、必要な設備やスキル、そして人間関係に投資する。自分が何か起業するなら何に投資し、何の技術を磨くか、を考えてみてください。そして、投資するための資金を作るには協力隊のお金だけでは足りません。何か安定的で比較的確実、他に影響されず「自分が動けば稼げる」仕事を見つける。厚真町の林業においてはそれが「造林」に関する仕事です。

厚真町の森だから育まれる、厚真町の林業の豊かさ

ところで、「森に興味がある」としたときに「林業専業」である必要があるでしょうか?造林の仕事に関わり収入を得るとして、この造林の仕事があるのは年間にすると4か月ほどです(植林2か月、下草刈り2か月)。残りの時期に何をするか?木を切りに山に入る。木材を加工する。そういった森と近い時間の使い方もできますが、必ずしもそうでなくてもいいと思います。

半林半X、そんな仕事の仕方を考えてみることもできます。Xの部分には例えばデザインやIT系の仕事なんかでもいいですし、北海道の冬ならスキーのインストラクターなんかもできるかもしれません。何か自分の得意なことや好きなことで稼ぐための投資を考えてみてはどうでしょうか。もちろん林業となんらかの「相乗効果」が出るとより面白いと思います。ただし、「造林」の仕事も決して楽ではありません。自分の時間と体力を使うことになります。そこでしっかり時間を使わなければ、投資に回すほどのお金にはなりません。協力隊の任期が終わるときに次につながる何かをどう作るか、そのためのお金をしっかり稼ぐ覚悟が必要です。

また、森に関わるという点では必ずしも起業である必要もないと思います。厚真町には丹羽林業という林業会社があり、担い手を募集しています。同社の専務取締役の丹羽智大さんに伺ったところ、経験がなくても「丁寧な仕事」を心がけてくれる人なら歓迎とのことです。厚真町で起業を目指しLVSに参加した方が丹羽林業に就職したケースもあります。春から秋にかけては造林を中心とした仕事を行い、冬場には造材(木を切る)の仕事に携わります。経験を積めば林業に必要な重機を扱う機会もあります。「一般社団法人ATSUMANOKI96」という厚真町の林業の魅力を発信する団体では、西埜さんや中川さんと一緒に丹羽さんも活動しています。このように地域に入ってくる林業家と地元の林業会社の関係性が良好であることも、厚真町の林業の可能性を広げています。

ここまでの話で「安定収入としての造林」について触れましたが、この「造林」という仕事は全国のどこの地域でも豊富にあるものではありません。厚真町には40~50年ほど前に植えてきたカラマツ(針葉樹)が切り時となっています。今、このカラマツを切ることでお金に換える。そしてそこにまた植えていく。経済林としての森の活用を厚真町として計画しています。そして2018年9月に発生した地震の影響で多くの土砂災害が起こり、厚真町の森は大きな影響を受けました。これを整備し、必要に応じて植林していく予定です。そしてこれらの厚真町内で発生する森の仕事は、厚真町の事業者に可能な限り担ってもらいたいと考えています。

厚真町は経済林だけでなく、豊かな広葉樹の広がる「環境保全林」も所有しています。ここを町内外のより多くの人が楽しめるような場とし、この森から新たに経済を回していく未来も模索しており、厚真町で森に関わる人にとって、新たな活躍の場ができる流れがあります。

将来的に森をどのようにしていくか?これはそのときどきの森の状況を見ながら、試行錯誤の繰り返しになりますが、厚真町役場の林業担当の皆さんはオープンに話を聞かせてくれます。気になることがあれば町の方針をすぐに確認できることも、厚真町で林業に従事する際の安心材料と言えます。

厚真町の環境保全林で行われたイベントの様子

厚真町の森で活躍するプレイヤーを求めています。

厚真町では起業型地域おこし協力隊を募集しています。起業し事業を継続するには、アイデアを考えたり、思いを高めたりといったことに加えて、「お金をどのように扱うか?」を考えることも大切です。

地域おこし協力隊の収入と確実性の高い稼ぎ方を組合せ、投資に回し、自立に向けて挑戦する。何に投資するか?その投資の中身こそが「個性」になります。個性を磨くとは、その投資した何かに磨きをかけ続けることです。厚真町の森に関わる人たちは、行政も民間のプレイヤーも含め、お互いの個性を認める関係性があります。そして、厚真町の森にはその感性を受け入れ育む豊かさがあります。

起業、就職、専業、兼業、厚真町の林業にはさまざまな選択肢があります。もし、この町の森をフィールドとして自分の個性を生かしてみるなら、LVSへのエントリーをご検討ください。起業以外の選択肢も含めて、まずは自分には何が向いているだろうか?を考えてみたい、そんな方の相談も歓迎しています。ぜひお問いあわせください。厚真町でお待ちしています。

厚真町の森に植林された苗木

本記事に関連して「地域おこし協力隊から起業家になるための、時間とお金の使い方」を解説するイベントを開催します。

2022年12月1日(木) 18:30~20:00 開催 参加費無料 オンライン配信あり

イベント詳細ページはこちら

タイトル:地域おこし協力隊から地域の起業家へ。北海道厚真町の具体事例でひも解く「地域で起業するためのお金と時間の使い方」

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