人生は一度きり りとらファーム石井さんが実現させた夢のクラフトビール販売

2023年11月20日

2023年10月下旬、厚真町内のコンビニで厚真町産のホップを使用したクラフトビールが販売開始されました。このホップを栽培しているのは農業支援員を経て2023年4月に厚真町で新規就農した「りとらファーム」の石井淳司さんです。新たな厚真町の特産品として期待されるクラフトビールが生まれるまでの道のりや今後のやりたいことについて石井さんにお話をお伺いしました。

大阪から“異国の地”北海道、そして美容師から農家へ

―石井さんのこれまでの経歴について教えてください。

石井:出身は大阪府豊中市です。大学生までずっと剣道をやっていて就職先まで決まっていたのですが、誰かの下で働くより自分で商売をする方が性に合っていると思って。母親が美容師だったこともあり、卒業後、専門学校に通って美容師になりました。子どもの頃からドイツに行きたかったので、ドイツでは手先の器用な日本人の美容師の需要が高いというのも美容師を選んだ理由の一つです。大学ではドイツ語も学んでいました。

―子どものとき、なぜドイツに行きたいと思ったのでしょうか?

石井:僕の誕生日が12月6日で、子どもの時にサンタクロースの命日だと知りました。正確に言うとサンタクロースの元になったとされる聖ニコラウスの命日ですが、それがきっかけでヨーロッパが気になり始めました。余談ですが、サミクラウス(注:スイス・ドイツ語でサンタクロースの意)というビールがあって毎年12月6日にだけ発売される熟成させて飲むビールがあります。前に熟成させたことがあるのですが、熟成前の味が分からなくて結局美味しいのか分からなかったです(笑)。

―さすがビールに詳しいですね。実際にドイツには行ったのでしょうか?

石井:美容師として4年ほど技術を磨いたあと行こうとしましたが、ドイツが不況だったり、家族のことがあったりいろいろとタイミングが合わなかったんです。でも、やっぱり海外に行きたかったので、国内の異国の地である北海道で独立することにしました。寒いのもヨーロッパっぽいですし。

―同じ国内とはいえ、知らない土地で新たにスタートすることは大変だったと思うのですが。

石井:家も決めずに車に荷物を詰めて身一つで北海道に来て、駐車場で寝泊まりしながら店舗を開く場所を探しました。最終的に函館市内の駅前で店を構えることにしたのですが、知名度も全くないし、最初の一週間はお客さまがゼロで、朝市や通勤途中の人にチラシを配っていました。でも、海外に比べれば言葉も通じるし、全く大変だとは思っていなかったです。東日本大震災で函館も津波の被害に遭い、店舗移転せざるを得ない時もありましたが、移転のおかげで奥さんと結婚することになり、家族もできました。

―「クラフトビールを作ろう」と思ったのはどういう経緯でしょうか?

石井:よく閉店後の店内でお金を出し合って高いウィスキーを飲むなど、飲み仲間でお酒を楽しんでいました。「お酒が好き」という共通項で集まった全然畑の違う仲間で、ある時「クラフトビールを作ろう」「それが飲めるお店を出そう」という話になったんです。 自分が農業に興味があってニセコ町で畑を借りていたので「じゃあ、俺ホップ作るわ」と一番先に行動し、就農先を探して厚真町に移住しました。飲み仲間は函館でクラフトビール醸造所とクラフトビールと料理が楽しめるBARを開いています。

―なぜ厚真町で新規就農しようと思ったのでしょうか?

石井:いくつか候補地はあったのですが、自分が阪神・淡路大震災、東日本大震災、胆振東部地震を経験していて、厚真町の震災復興のために何かしたいと思ったことと、子育て支援制度が整っていて家族が「厚真町がいい」と言ったのが決め手でした。 割と急に厚真町に行くことが決まって、17年間経営していた函館のお店を閉めることになりお客さまには迷惑をかけたのですが、その後も僕のことを応援してくださるので本当に有難い限りです。

石井さんのホップ畑。ホップの品種は300種類ほど存在し、そのうち150種類が日本でも栽培されている。

再び縁もゆかりもない場所、厚真町で誰も栽培していないホップ栽培に挑戦

―石井さんは農業支援員の頃からホップを栽培していたんですよね。

石井:ホップは収穫できるまで3年かかります。農地を持っている方と仲良くなって草刈りも雪かきも全部やるからと無償で小さな農地を使わせてもらい栽培を始め、町内ではホップを栽培している農家さんがいなかったので登別まで農業研修に行きました。その後、半年かけて農家さんと仲良くなって約2町の農地を借りて本格的に栽培を始めました。研修センターではほうれん草やいちごの栽培を学んで、いちごはクラフトビールの材料にも使用しています。

―町内で誰も栽培していないホップに挑戦することは反対されなかったのでしょうか?

石井:函館でお店を出した時「大阪から変な奴が来た」と嫌がらせを受けたことがあったので、地域に入るために飛び込みで挨拶に行きまくりました。研修生として農家さんにお手伝いに行った後に、その日のうちにもう一度同じ農家さんのところに「片付けで甘い所なかったですか?」と会いに行って研修生の一人ではなく僕個人として覚えてもらうようにもしました。 僕が「迷惑かもしれない」とあまり考えないので、もしかしたら「鬱陶しいな」と思う人もいるかもしれませんが、やっぱり何回か行っているうちに仲良くしてもらえるんです。今では皆さんお米や野菜をくれますし、ホップ栽培やクラフトビールのことも応援してくれています。

収穫されたホップ。ホップは種類によって苦みが強いもの、香りが強いもの、どちらも弱いものなどそれぞれ特徴がある。

―町内初のホップ栽培は大変だったと思いますが、初収穫はどうでしたか?

石井:10種類のホップに挑戦したのですが、そのうち2種類は厚真町の土地に合わなかったのかうまく育ちませんでした。あとは今年の猛暑で想定していた収穫量には全く届かなかったですね。今回醸造したクラフトビールは収穫できた8種類のホップを使用しています。ホップは単一の品種でビールを作ると特徴が良く出るので、将来的にはそれができるくらいに栽培面積を増やしていきたいですね。

クラフトビール販売から始まる、石井さんの次の挑戦とは

―ようやく完成したクラフトビールの周囲の反響はいかがでしょうか?

石井:おかげ様で新聞やテレビにたくさん取り上げて頂いて、昔のお客さまも周りの農家さんもメッセージや電話をくれて、とても嬉しいです。町内のコンビニで販売しているのですが、初回入荷分は2~3日で売り切れました。クラフトビールになじみがないと、普通のビールに比べて価格が高いので躊躇してしまうかもしれませんが、頑張って良いものをつくったのでぜひ飲んで頂きたいです。

今回販売開始したクラフトビール3種。醸造したのは函館にいる飲み仲間。実はラベルに記載されているビールの名前は一つ一つ手書きされている。
左から:
ハスカップPOTER:厚真町産ハスカップを使用した、Stoutよりも飲みやすい黒ビール
厚真IPA:石井さんが栽培したホップの香りと苦みを強く感じるビール
StrawberrySweetStout:石井さんが栽培したいちごを使用したチョコレートのような香りがする黒ビール

―目標であったクラフトビールを作ることは達成したと思うのですが、次の展開はあるのでしょうか?

石井:醸造は函館で行っているので、収穫してすぐ瞬間冷凍したホップを送って、できたクラフトビールを送って、となると輸送コストがすごくかかってしまうので、上厚真にクラフトビール醸造所を作りたいですね。そして、厚真町産の野菜を使った料理とクラフトビールを楽しめるBARも開きたいです。あと、今は海外の麦芽を輸入して使用しているのですが、いつかオール厚真産のクラフトビールを作ってみたいです。

―次々とやりたいことであふれていますね。そんな石井さんの原動力はなんでしょうか?

石井:飽きやすいというのもあって、常に何かに挑戦していたいという性分なのと、これまでの人生で3回死にそうになった経験があるので、やりたいと思ったらやらなきゃもったいない!と思っているからでしょうか。どうせ死ぬ一度きりの人生ですから、やりたいことやらなくちゃ。実はまだドイツ生活も諦めていません!

―ありがとうございました。これからもクラフトビールの展開を楽しみにしています。

石井さんのこれまでの人生やクラフトビールへの想いを感じながら、厚真町のクラフトビールの味わいを楽しんでみませんか?

クラフトビールの購入は厚真町内のハマナスクラブにて
https://www.facebook.com/hamanasuatsuma

石井さんの仲間が経営する醸造所とBAR
・H.M.Works ozigi 函館麦酒醸造所
https://www.instagram.com/hakodatebrewery/



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