介護職の本当の魅力とは? ぜひ「一人をチームで支える喜び」を感じてください。
2021年3月9日
北海道の厚真町役場には「福祉」に情熱をかける人がいます。
住民課福祉グループの主査、高橋卓嗣さんです。
町内の介護施設で15年間働いた経験を持ち、2018年から役場で介護に関する事業などの窓口となり、住民や事業所とのパイプ役を果たしています。
福祉のより一層の充実を目指して、現在、町内の事業所では介護スタッフを募集中。
そこで、まちの福祉への取り組みと求めている人材について聞きました。
福祉一筋に歩んできた人生
高橋さんは厚真町出身の39歳です。福祉に興味を持ったきっかけは、少年時代にさかのぼります。家にお客が訪ねてくるのを楽しみにしている人一倍ひと懐っこい少年だったそうで、進路を決めるときに接客業が向いているのではないかと考えたと言います。
候補の職種をいくつかあげる中で重要だったのは「人の役に立てる仕事」であること。自分で何かをつくり出すよりも、誰かのために何かをしたいという欲求が高く、福祉の道を目指すことを決めたのです。
専門学校へと進み卒業後の進路として考えたのは、厚真町の介護職。しかし当時は、介護保険制度がスタートしたばかりで、業界を目指す人材も多く就職は狭き門。数名の枠に100名以上の応募が集まる、そんな時代だったそうです。
また、介護を受ける側が女性の場合、同性のスタッフにサポートして欲しいという希望もあることから、男性職員の枠は多くはなかったそうです。
「面接ではプレゼン力が必要でした。この時、僕が話したのは家族内での経験です。実は姉が8人いまして、男目線だけではない生き方をしてきたこと、兄弟はかなり年が離れていたので幅広い年代と接してきたことなどを話しました」
高橋さんは面接を無事突破。厚真町の社会福祉法人に勤めることとなり、障がい者、自宅にいる高齢者、施設で暮らす高齢者の支援など、さまざまな経験を積んでいきました。
「地元に就職したので、まちの昔の話題ができて、80代や90代の方とも話が合いました。みなさんによく声をかけてもらって、友達のように接してもらうこともありました」
役場に転職。見えてきた課題
15年間勤めたのち、苫小牧市にある地域包括支援センターに転職。その後、縁あって厚真町役場で2018年から働くこととなったそうです。
高橋さんは、まず役場での業務をマスターするところから始めました。半年が過ぎる頃に北海道胆振東部地震が起こり、その対応にも追われることになりました。
「震災でダメージがあって、当たり前にあったものがなくなってしまい、それを再構築するためにこの2年やってきました。全壊した福祉施設も、ようやく新しい建物でスタートできましたし、これから課題解決に向けて進んでいけると考えています」
厚真町は、もともと福祉に手厚いまちです。人口は4500人ほどですが、365日入所してサービスを受けられる施設の定員は107人。また、障がい者支援施設もあり、重度の障がいをもつ方の受け入れベッド数は50床。3つの法人がこれらを運営しており、2021年春には新たなサービス付き高齢者向け住宅「ライフサポートハウス すまいる」もオープンします。
この環境をさらに充実したものにするためには何が必要か? 高橋さんは現状の課題をこう捉えています。
「まず、安心して暮らせるまちとは何かと考えたときに、高齢者の方にでも十分に伝わるように役場の相談窓口が信頼ある場所でないといけないと思います。課ごとではなく、個別にコーディネートしていくようなワンストップの窓口をつくっていけたらと考えています」
さらに長期的な課題として考えているのは、介護人材の育成だそうです。現場にずっと身を置いてきた高橋さんだからこその、働く人の立場に立った視点がそこにはあります。
「全国的に介護人材が不足している状況があると思います。これだけ不足しているということは、働いてみたいという魅力を感じてもらえていないと言わざるを得ません。厚真町では人材募集の施策を打っていますが、それだけでは根本的解決にはなりません。町内には幸い大規模な施設があって、介護の仕事に就きながら、さまざまな仕事への熱意ややりがいをもって活躍されている町内の介護人材の皆さんがおり、その中には厚真町の未来の福祉を担う多くの若い方たちもいます。僕は、こうしたみなさんの声を集め発信するお手伝いができたらなと考えています」
どんな仕事でも忙しさに追われると、自分のやりたかったことが見えなくなってしまうことがあります。「現場のスタッフたちが“自分はどんな介護をしたいのか”を互いに伝え合い、その思いが評価されるような場をつくりたい」と高橋さんは考えています。
「働く方たちが、楽しみを持って勤められるようにしていきたいので、モチベーションが上がる研修や勉強会の機会をつくっていきたいですね。まず自分が何をやりたいのかを声に出さないと、次の目標って生まれないと思いますから。介護を受ける方にとっても勤める方にとってもいい施設であることが、安心して暮らせるための一番の解決だと思います。介護という業種が『辛くてきつい』だけじゃなくて、得ているものがあるということも、もっと伝わって欲しいと思います」
得ているものがある、と高橋さんはまっすぐな眼差しで語ってくれました。介護の現場は、仕事を越えた喜怒哀楽がある魅力的な場所だと言うのです。
「たとえば、退院後にちょっとした段差が上がれなくなってしまった方がいたら、どういう筋力をつけたら良いのか、どういう生活を目指していくのが良いかを一緒に考えながら、積み重ねていくんです。今もお元気で、その時のことを覚えていてくれる方もいます。残念なことに亡くなってしまった方もいますが、ご遺族から「あのときはありがとう」と感謝を伝えられることもあります。こんなふうに、すべて自分に返ってくる。仕事とは割り切れない部分で、満たされていく場所だと思います」
福祉の仕事を志す人が増えてほしい
厚真町の事業所のうち、2021年春にオープンする「ライフサポートハウス すまいる」や、既存のグループホームなどで現在介護職員の募集を行っています。どんな人材が求められているのでしょうか?
「条件として資格や介護施設などでの経験が必要ですが、我々としては、この仕事に就きたいという志を大切にさせていただきたいと思っています。なぜかというと誰しもが目指せるわけではない、選択肢に入りにくい業種だからです。現時点で、経験が浅くてもまったく構いません。これからサポートしてくれるスタッフの皆さんと一緒にスキルを高めていこうという思いを持ってきていただければ十分です。我々もスキルアップのサポートをさせていただければと思っています」
町外から移住して厚真町で働くという選択をする人もいるかもしれません。このまちで働く魅力を高橋さんにたずねると……。
「魅力は、人だと思います。小さい頃から、まわりのいろんな方に支えてもらいましたし、本当に温かいまちです。施設には、もともとご近所同士で知り合いだった方たちが通っていますし、地元の食材がメニューに出ることもありますし、小さいまちだからこそ感じられる安心感があると思います」
そう言いつつも、高橋さんは「でも、実は介護業界に入ってくれるなら、厚真町でなくてもいい」と付け加えました。介護業界の仕事の厳しさについては、多くのメディアで語られていますが、常々「もっとこの仕事の深いところを発信してほしい」と思ってきたのだそうです。
「この業種がもっと選ばれていいはずです。一人だけで考えると大変だとかキツイ仕事となるのかもしれませんが、チームとしてみれば喜ばしい声がたくさんあります。一人を支えるために、多くの人が関わっていますから」
「そして困難な状況にあった方が、今健やかに暮らせている姿を見ると、非常に達成感を感じると思います。あらゆる困難を乗り越えて、こちらも一緒に大きくなっていくんです。さらに言えば、この仕事は死にも向き合っていかなければならない。そういった場面に真剣に向き合っていけることも貴重な経験となると思っています」
介護の現場にいた頃、高橋さんはタクちゃんと呼ばれ、優しく体を支えるその手を「やわらかいね」といつもほめられていたそうです。その手の温もりは今、まちの人々の心へと向けられています。高橋さんの福祉にかける情熱から、この仕事の根源的な意味を考えさせられる取材となりました。
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