ほしい未来も、なりたい自分も、厚真で作れる!
2017年9月28日
地域を舞台に、自分の可能性を開拓するプログラム「ローカルベンチャースクール(以下LVS)」、そして「ローカルライフラボ(LLL以下)」。厚真町という地域を起点とする2つのプログラムのスタートに当たり、2017年7月、札幌市内でキックオフイベントが開催されました。イベント前半はWEBマガジン「greenz.jp」編集長の鈴木菜央さんの講演、後半は「厚真町役場職員と考えるワクワクプロジェクト」と題した交流会を実施。会場には「自分の本当にやりたいことが何か分からない」「今の暮らしや仕事に対して何となくモヤモヤしている」「田舎に興味があるけれど何から始めればよいのか分からない」など、たくさんの?(ハテナ)を抱えた人々が集い、ざっくばらんに語り合い、それぞれが自分を見詰め直す時間になりました。
今回は、鈴木さんのお話の中から「ほしい未来」と「一番なりたい自分」をつくるための大切なポイントを紹介。そして、ほしい未来を手に入れる場所としての厚真町の可能性についてお伝えします。
活動の原点は、被災地で見た「生き生きとした人々の姿」
「一人ひとりが『ほしい未来』をつくる、持続可能な社会」を目指す、NPO法人グリーンズ。WEBマガジン「greenz.jp」を通し、各地で広がるソーシャルデザインの実際を発信しています。グリーンズの立ち上げの一人であり、greenz.jpの編集長を務める鈴木菜央さんもまた、自身の「ほしい未来」づくりを探求し続ける日々を過ごしている一人です。
「社会をつくる」なんて言葉を聞くと、一見壮大で高尚な目標に感じてしまうかもしれません。しかし鈴木さんの活動の原点には、きっと誰もが「本当は、そうだったらいいよね」と感じるような、とても純粋な思いがありました。
鈴木:僕自身は東京育ちで、子供時代にバブル絶頂期を過ごしてきました。当時の周りの大人たちは皆すごく疲れていたし、こんな世界で大人になりたくないなあ…とぼんやり思っていました。そんなとき転機になったのが、高校3年生の時に参加した阪神・淡路大震災のボランティア。そこでは学生や主婦、大企業に勤めている人など、さまざまな立場の人が1円ももらわなくても生き生きと働いていたし、目の前の社会課題をすごいスピードでクリエイティブに解決していました。そこで見た生き生きとした状況があれば、暮らしはもっと楽しいはず。「一人一人の才能が生かされ、すべての人が欲しい未来をつくれる社会を作りたい」という思いを実現するために、greenz.jpを立ち上げました。
ほしい未来のドーナツ化現象!?
グリーンズでは、ほしい未来をつくる人・組織・考え方をwebマガジンを通じて紹介するとともに、2012年には「社会は特別な人だけでなく、誰でも身の回りの社会を作ることができる」というソーシャルデザインの概念を打ち出します。さらに、その活動はアイデアとアイデアを“つなげる”場「green drinks Japan」の開催、思いやアイデアをみんなで“形にする”「グリーンズの学校」の主催など、着々と裾野を広げていきました。
その一方で、鈴木さんはソーシャルデザインが持つ「限界」を感じるようになります。
鈴木:社会を作る時、やっぱりスーパープレーヤーしか突破できない“壁”のようなものがあると思ったんです。もちろん最初からスーパープレーヤーなんて人はいないけれど、多くの人が血の滲むような努力をして、その壁を越えている。なぜこんなに大変で、こんなに孤立しているのか。社会に対して良いことをしている人の方が、家族との関係がうまくいっていなかったりするんですよね。
そして、鈴木さんの暮らしもまた、思わぬ方向に進んでしまったといいます。
鈴木:グリーンズという僕なりのソーシャルデザインを形にし、何とか食べていこう、どうせなら良い仕事がしたいと、一生懸命仕事に打ち込んでいきました。でも、家族と幸せになるために頑張って来たはずのソーシャルデザインの活動にのめり込むほど、家族との時間をないがしろにしていて。帰宅すると一緒に住んでいる子供たちに「パパ、また来てね」と言われるんです(笑)妻にも「もう無理かも…」と離縁を迫られたり…。これはまさに、ほしい未来を作ることに没頭した結果、自分の外の世界は充実したものの、プライベートな部分が空っぽになるドーナツ化現象じゃないか!!と、めちゃくちゃ凹みました。
それ以来、暮らしの基本を見直すことにした鈴木さん。ほしい未来、なりたい自分について、じっくり考えた結果、たどり着いたのは「何でも作れる人になる」ことでした。
鈴木:「遊びは大きく、不安は小さく。希望は大きく持ちたい」というのが、自分の中の切実な願いでした。そこで将来の不安を減らすための方法として、経済危機を乗り越えられるようなスキルや、困ったときに助け合うネットワークを構築し、それらの学びを自分だけでなく周囲と共有したいと考えたんです。この一件がきっかけとなり、千葉県のいすみ市に引っ越して家具や家電などさまざまな支出を減らして小さく暮らすタイニーハウスでの生活を始めたり、周りを巻き込んでDIYにも挑戦しています。ですが、コミュニティーの土台は自分で作れても、ほしい未来を「地域の中で作る」にはどうしたらいいのかは分からなかったんですね。
その疑問を解くカギは、まさに地域にありました。誰か一人が孤独に頑張り続けなくとも、それぞれが持つ個性や資源、アクションが集まって大きな流れを生み出している町があったのです。
鈴木:例えば、イギリスのトットネスという町では、今ある町をエコビレッジに移行していく「トランジション・タウン」という活動が行われています。約1000人が参加し、地域課題を住民が共に解決する40ほどのワーキンググループがあります。これらの活動には、町の中に植えられている食べられる木をマッピングし、みんなで木の手入れをして困った時に分け合う『食べられる森プロジェクト』や、DIYを学んで家のすきま風を自分たちで埋める『すきま風バスターズ』などのほか、お祭りやワークショップもあります。いずれもまったくお金をかけずに、一人一人が持っている資源(技術)を活用して地域の課題を解決しているのが特長です。
このほかにも、アメリカのポートランドの「シティリペア」運動や、神奈川県・旧藤野町の「トランジション藤野」など、自身が目指していた「一人一人の才能が活かされる場所づくり」の事例を取材する中で、鈴木さんは被災地に立った時に感じた「ほしい未来をつくる」ことの本質に立ち返ります。
鈴木:個人の力だけでは、複雑化する社会課題にとても太刀打ちできないんですよね。どうしたら地域でみんなが支え合う形で、やりたいことが実現できるのかを考えていかないと。そして僕が自分の限界を抱えたときに感じたのは、暮らしと地域と社会が同心円の構造になければ、豊かさにはつながらないということです。地域を豊かにしようとしても、それが自分の暮らしを豊かにしないのであれば意味がない。地域と世界の関係も同じです。今生活しているいすみ市やグリーンズの活動は僕の暮らしそのものだけど、その中で地域と世界をつなげる考え方を広げていくことが、ひいては僕の暮らしを作り、世界を作ることになるのだと思います。
「ほしい未来」を受け止める町、厚真
ほしい未来をつくることは、自分にもできるかもしれない…。鈴木さんのお話は、私たちに自分が持つ可能性に気付かせ、本音と向き合うコツを教えてくれたような気がします。でも、さて、実際に何から始めればいいのでしょう。もしかすると「自分のやりたいことに共感してもらえるのか」という不安や迷いが残っているかもしれません。
厚真町には、そんな心配事を払拭してくれるたくさんの強い味方がいます。「厚真は、話を聞いてくれる人がいる町」と胸を張って答えてくれたのは、今回のイベントにも登場した厚真町役場の職員、宮下さん(教育委員会)、小山さんと江川さん(まちづくり推進課)、宮さん(産業経済課)の4人です。
4人の共通の願いは、何よりもまず「厚真町に関わってくれる人が増えること」だといいます。
宮:僕は学生時代から林業を学んで来たので、林業を通した持続可能な社会にづくりをライフワークにしたいと思っていました。でも、実際のところ林業の研究者はいっぱいいるのに、林業自体の盛り上がりはまだまだ少ないように思います。一方で、厚真町で働くようになり、もっと地域を俯瞰して、地域を支えるメカニズムを考えなければ、持続可能な社会づくりは出来ないのではないかと思うようにもなりました。ですから、まずは林業にこだわらず厚真町に関わってくれる人が増えてくれたら嬉しいですし、「交流人口」から一歩進んだ「関係人口」への広がりを期待しています。関わり方のスタイルはたくさんあって、一人一人の関わりたいタイミングで関われる方法もあるはずだと思っています。
厚真町では今年から新たに、これからの暮らしや生き方を3年間というスパンで探求するプログラム・LLLを実施します。「移住しても、しなくてもいい」という新感覚の取り組みですが、生まれも育ちも厚真町の江川さんからはこんな本音が。
江川:長いこと地元に住んで感じるのが、「頻繁に会っていたら、町に住んでいなくたって町民なのでは?」ということなんです。厚真町は案外広くて、町民同士でも皆が頻繁に会えているわけではありません。でも、町外に住んでいても1週間に3日会えたら、もう町民だと思っています(笑)住んでいるとか住んでいないとかは重要ではなくて、厚真町民もそうでない人も、みんなが集まってワイワイできる場所をつくることの方が大切なんじゃないかな。そうすれば、もっと幸せな地域・社会になると思うんですよね。
また、2年目の開催となるLVSでは、2016年に引き続き厚真町を拠点にした起業や新規事業立ち上げを応援します。昨年は「馬搬(ばはん)」を活用した林業、車やカメラ等の個人貿易事業が採択されましたが、厚真町には「ほしい未来をつくる」ヒントになる資源が、まだまだたくさんあります。イベントでは参加者と役場職員が厚真町の可能性についてアイデアを出し合い、ユニークな発想がいくつも飛び出しました。宮下さんは、こういった内と外の交流から生まれる相乗効果に期待を寄せます。
宮下:厚真町には年間6万人が集まる「浜厚真」という海岸があります。町の課題は、波乗りに来たサーファーが波乗りが終わるとすぐに帰ってしまうこと。まだまだ経済活動に結びついていないのが現状です。サーファーをきっかけに人が集まる場づくりは以前から考えてきたことですが、今回のイベントで「ゲストハウスやサーファー以外も楽しめるプログラムを作ってはどうか」という面白いアイデアも出てきています。受け入れ側の私たちも、外から注がれる熱いエネルギーを感じて、さらに頑張ろうと思えました。サーフィンをきっかけに厚真にもっと関わってもらい、たくさんの人に町の魅力を感じてもらいたいですね。
小山さんは厚真に現存する古民家という資源に注目してきましたが、今回の交流で目からウロコが落ちたそう。
小山:厚真町は降雪量が少なく、富山、石川、福井県などから移住した開拓民が使っていた当時の建築様式の古民家が今でも現存しています。築100年以上経つ古民家を、移築、再生、保存し、そこで何か面白いことができないか模索してきました。ですが、今まで自分は建物にばかり目が行っていたことを痛感しました。100年前の暮らしを再現したり、そこにお年寄りの皆さんの知識や力を生かすという発想は、新しいコミュニティーづくりの一歩になると思います。
厚真という地域は今、まさに変革の瞬間にあります。そんな町で、ほしい未来を自由に、一緒に描きたい。4人の言葉から、そんな思いが伝わってきます。
ほしい未来をつくるときには「1人ではなく、みんなでやることが大切」と鈴木さんが言うように、ローカルベンチャー、ローカルライフラボも決して1人の力で進めていくプロジェクトではありません。役場職員やエーゼロをはじめとするメンターと一緒に、厚真町であなたの「ほしい未来」と向き合ってみませんか