「厚真町は自由度があって挑戦しやすいまち」。林業などに挑戦して共にまちをつくる人、待っています
2020年9月2日
厚真町に林業の若手プレーヤーが集まってきています。
高齢化の進む林業界において、それはとても珍しいこと。
代表的な存在が、『丹羽林業』の丹羽智大さん、個人事業主の西埜将世さん、『木の種社』の中川貴之さんです。
彼らは、まちのことをどう捉えているのでしょう?
はじめに、厚真町の林業グループ兼経済グループ主幹の宮久史さんに厚真町の林業の特徴などをお聞きし、その後にみなさんで話していただきました。
親しい間柄の4人。和気あいあいとした雰囲気でトークが進みました。
多様な森林が残っている、可能性の高いまち
— 宮さんは、今は役場で林業などを担当していますが、もともとは北海道大学の大学院で森林科学を学び、博士課程修了後、森林生態系の再生や保全に関するNPO法人で働いていらっしゃいました。厚真町の森林や林業にはどのような特徴があるのか、教えていただけますか。
宮:厚真町は面積の約7割が森林で、そのうち33%が人工林、67%が天然林です。まちの海側と山側、地区ごとで、植生などの特徴が異なり、多様な森林が残っています。
「木の生長が良く、土地の傾斜が急ではないので作業しやすく、都市部に近いので、林業の生産地として可能性がある。林業の先進地と比べても負けていない」と思っていたんです。
ただし2018年に北海道胆振東部地震が起き、今は「震災による崩壊地の森林再生」というやるべきことが追加されました。「森林活用と環境保全と経済性のバランスをどう取っていくか」という考え方の軸は変わっていないものの、崩壊地を含めた山林とどう向き合って価値を生み出していくか。林業だけではない、木材以外の森林から生み出される価値について考えています。例えば、養蜂や山菜採りなど、産業化できていなかった部分です。
厚真町の森林の多様性の高さは可能性の高さでもあります。新しい利用方法を考えて活かせれば、自由度が上がるんです。自由度の高さが、森林の魅力ですし、好きなところの一つですね。でも「欲しい」と思っている人が多くいる場所でないとその自由に気づけませんし、勝ち取りにいかないと手にできない。いろいろなプレーヤーが揃ってくれば、自由の領域が増えるとも思っています。
町外の人から「厚真はおもしろいことやってるね」と言われる
— 森林の魅力を掘り起こしていくためにも、プレーヤーが必要ということですね。ここからお三方に加わっていただき、宮さんに進行していただきます。中川さん、西埜さん、丹羽さん、よろしくお願いします。
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プロフィール
丹羽智大(にわ・ともひろ)さん
1987年、厚真町生まれ。宇都宮大学農学部森林科学科卒業。現在、1958年に祖父が創業し1990年に法人化された『有限会社丹羽林業』に3代目次期社長として勤めている。2019年、地域の森林づくりの後継者である北海道青年林業士に認定された。
西埜将世(にしの・まさとし)さん
1980年、恵庭市生まれ。岩手大学卒業。自然体験施設や林業会社などに勤めた後、牧場会社の仕事で馬に関わる。「厚真町ローカルベンチャースクール2016」で採択され、地域おこし協力隊に。現在は独立し、山が荒れにくい「馬搬」という馬を使った林業に従事している。
中川貴之(なかがわ・たかゆき)さん
1982年、札幌市生まれ。北海道教育大学釧路校卒業。22歳で林業の世界に入り、厚真町で従事する。その後製材業を経て、「厚真町ローカルベンチャースクール2019」にエントリー。採択され地域おこし協力隊となり、製材などを行う『木の種社』として活動中。
宮:はじめに改めて聞きたいのは、3人が森林に関わる仕事をしているのは、どうしてですか?
丹羽:家業なので、子どもの頃から僕が継ぐという雰囲気でしたが、林業の仕事はおもしろいなと感じました。山に入ると疑問がどんどん出て、本をいろいろ読んで勉強して。森林は成果が何年か後に出るので、それが容易には分からないところや、想像することがおもしろいです。
西埜:僕は高校卒業後の進路を考えるまでは森林にぜんぜん興味がなかったです。でも鼻炎持ちでハウスダストとか室内が嫌いで、外で働きたくて「森を歩く仕事いいな」って(笑)。大学のゼミで森林に携わったら田舎に行く機会が増えて「やっぱり森おもしろいな」と思い、自然学校や林業会社で働いて、今がある。
中川:大学で地域環境教育を学んでいて、先生から「森にキャンプに行って、薪割りやってみろ」と言われてやってみたら、これがおもしろくて。札幌にいると薪割りをする機会はあまりないから。その薪割りが、俺だけバカバカ割れておもしろかったのと、みんなに「大型新人だ」と言われて調子にのった(笑)。でもそのとき「木っておもしろいな」と思ったことがきっかけで、林業の世界に入ることに。
あとは、自分には特技も趣味もなくて、みんなと同じ土俵にいても勝てないから、人がやってないことをやろう、“空いている電車”に乗ろう、という気持ちもあった。林業はマイナーだから。
宮:今厚真町で活動していて、まちにどんな印象をもっていますか?
西埜:自分のなかでも林業という仕事のイメージは固定化されがちなところがあったけど、厚真町は自由度があって、変わったことをしやすい雰囲気があると感じます。自己実現や、挑戦をしやすいところが厚真の特徴なのかなと。
丹羽:厚真町に帰ってきた7年前は「林業でやっていけるのか」と不安があった。先輩は歳の離れた50代だらけで若手がいないし、儲からないイメージもあって「自分の代で終わらせたほうがいいのか」と、後ろ向きで。そこから同世代の仲間が増えたり、こうやって同業で気軽に話せる人ができたりして、つながりがおもしろいなと。町外の林業関係者から「厚真はおもしろいことやってるね」と言われたりもするし。
宮:厚真町では、業界では珍しく広葉樹を今もバリバリ切っているし、資源的な魅力もあるから、「厚真っておもしろいね」となってきているのかもね。中川さんは、初めての就職先がたまたま厚真町で、「厚真町ローカルベンチャースクール2019」を機に厚真町へ戻ってきた立場だけど、どう感じました?
中川:10数年ぶりに厚真町へ遊びに来たとき、「林業をやりたい」という若い人たちがいて、まちの空気がポジティブになっていて「おもしろいところになったな」と。厚真町は、林業がまちの一大産業のように盛んではないからこそ、むしろそこがよくて、伸びしろがあって若い人でも動きやすい。
ほかのまちなら、なかなかそうはいかないです。『丹羽林業』さんの社長さん(編集部注:丹羽さんの父・丹羽裕文さんのこと)の人柄がいいことも大きい。丹羽社長が林業の新規参入者の受け皿になってくれていて、本当にありがたい。
丹羽:僕も自由度はあるほうがいいと思っていたし、二人のような(新規参入の)存在はウェルカムです。
西埜:新規参入がむずかしい産業だからこそ、僕たちが厚真に入りやすい空気をつくってくれたんだなって感じる。
宮:みんな自由度を感じていたんだね。事業として、自由を感じるの?
丹羽:民有林が多く工場が指定されていないから、ある程度売り先を選べるところもそうです。「この材どうなるんだろう」と価値を見つけるのが自由で、裁量がある。ただ作業するだけではなく、選木とかで選択肢が多い。
今は、中川さんが挽いてくれる(丸太を製材する)から、森林組合のほうも「買ってくれるんじゃないか」と考え方が変わってきて、ちょっとずつ広がりがでている。
裾野の広い林業ができるまちにしたい
宮:役場のほうも、今は林業担当が6人いるけど、以前は僕1人だったから、変わってきていますね。では、モチベーションが上がったり、やりがいを感じたりするのはどういうとき?
西埜:「自分にはむずかしそうだな」と思った仕事ができて、成長を感じられるようなとき。あとは、これまで出会ったことがないような人がまちに来てくれて、その出会いが仕事などに展開していくときも。
中川:まちに来てくれた人たちが製材しているところを見て「木っておもしろいね!」と感じてくれたり、「こう使ったらかっこいいよね」という話に広がったりすると、うれしい。
丹羽:季節ごとに楽しいと感じることがある。例えば、春だったらいろんな生きものが動めくし、冬だったら雪とか。日差しとか、五感を使って感じる部分があるところが林業は楽しいです。
宮:みんなは、未来にどういう可能性を見ていますか。5年後の森林のイメージがあれば、それをぜひ。
中川:野菜と違って、丸太って一般の人がそこから加工するハードルが高いんですよね。丸太のままでは使い道があまりなくて、薪やログハウスくらい。製材をして板や角にして、家具などをつくる人がいてこそエンドユーザーにやっと届く。その川下のほうを充実させ、裾野の広い林業ができるまちにしたいです。厚真は人口の多い都市部に近いから、やりやすいはずなんだよね。
西埜:やっぱり大工さんがいたら、と思う。高齢化が進んでいて、本当にいないから、そういう生活と森林を近づけられる人は増える必要がある。
丹羽:全国的な問題として、林業に従事しても辞めてしまう人が多いんですよ。林業の仕事ってキツいんだなって。でも、キツくならずにできないものか、考えている。そこを変えないと、どこの業界も人が足りていないなか、今後入ってくるのかと。具体的には、例えば人工造林や下刈りは大事な仕事なんですけど、作業が大変で林業を続けていく上での一つの試練になっていて、辞める人がいる。
宮:個人事業主と企業とでは、人工造林や下刈りへの考え方は違う?
西埜:個人事業主としては、ありがたい収入源の一つです。タイミングによって「この期間までにやっておけばいい」と自由がきくし、他の仕事との同時進行もできる。「今日は草刈りやるかな」って。
中川:草刈り機があれば稼げる仕事だし、自分も造林には助けられていて。製材は、設備投資ばかりかかるのに利益率が低いから、造林と組み合わせて仕事ができている。
林業は、体の具体的なキツさと、精神的に希望がなくてキツいという2種類があって、後者のほうが辞めていく人が多いのでは。結果が見えにくいから、林業って。乗り越えるには「汗をかいたぶんだけ稼げるかどうか」が大事で、自分の仕事が未来につながっている感覚、エンドユーザーに届いている感覚があるかだと思う。造林って地味だし単純な作業だけど、未来につないでいくことに参加している手応えがあると、あまり辞めないで済むのかな。
丹羽:会社組織だと、どれだけやっても他の人と同じ給料で「どれだけがんばればいいんだ」と思うケースも多い。
宮:『丹羽林業』さんのような重機をいっぱい持っている会社は、人工造林や下刈りは小回りのきく人にお願いしてもいいのかもしれないですね。林業事業体と個人事業主とが連携して地ごしらえは事業体、人工造林からは個人事業主に渡しちゃう「厚真町スタイル」で、有機的につながりながらやれないかなと。厚真の森林の仕事は、厚真の事業者だけでこなせていなくて、町外の人が入っているから、川上側も川下側も足りていない状況。これから、役割分担でお互いに助け合えるつながりが厚真町でできたらいいですね。
中川:今後、厚真町の崩壊地でも造林の仕事が増えていくだろうから、「造林×○○」という組み合わせが広がっていくと魅力的な地域になっていくと思う。「造林×製材」、「造林×鉄鋼」、「造林×左官」とか。
お互いのためのつながりが「厚真スタイル」になる
宮:最後に一言ずつ、決意表明をお願いします(笑)。
中川:厚真町に来て「広く浅く、いろんなことをやる方法がいいのかな」と思っています。広く浅く木に関わることをやる会社があってもいい。製材をやるけど、特定の樹種や特定の製品しかつくらないんじゃなくて、広葉樹も針葉樹も。苗木もつくれたらいいなとか。製材品を使って土木工事をするとか、リフォーム、DIYにも関われたらいいなとも考えています。そういう風にするとおもしろくなるかなと思っています。
西埜:自由感のある厚真の林業は貴重な業態なんだなと、今日改めて感じました。人が来てくれたらもっといいなと思うから、来てもらえるような雰囲気を自分もつくれるように仕事をしたいです。
丹羽:今日はポジティブな話ができてよかった。みんなで「林業呑み会」ができたらいいなと思いました。場が増えていけば、もっといろんなことができそう。
西埜:いいね! 毎回いろんなところでやりましょう。
宮:やりましょう。地域で仕事を取り合うのではなく支え合う関係性をつくれそうだなと、上手く役割分担できそうな可能性が見えました。お互いのためのつながりができたら、それが厚真スタイルになるのかな。5年後、それができていたらいいなと思います。
やはり厚真町をつくっていくうえで、林業事業者が必要です。森林再生は息の長い活動になるので、地域に関わり続ける人、森を見続けられる人がいたほうがいいと感じています。
— 共に未来をつくる人に厚真町へ来て欲しいですね。経験を問わず、事業を進めやすくなるようなつながりや仲間が見つかるまちだと思います。厚真町でチャレンジしたい方は、ぜひ「厚真町ローカルベンチャースクール2024」にエントリーを。締め切りは、2024年11月30日(土)です。みなさん、ありがとうございました!
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