ボランティアで厚真町に仲間と通い続けた北大生が、4年間を振り返って思うこと。 〜大学生が地域と出会う。そのひとつの形〜

2024年3月1日

北海道胆振東部地震の後から厚真町に関わり続けている学生ボランティアサークル「あるぼら」。メンバーの吉田理奈さんは北海道大学に入学した当初から厚真町通いをスタートし、2年生からは「あるぼら」の代表となって、時には悩みながら継続的な活動を行ってきました。2024年春に卒業を控えた吉田さんは4年間にわたる活動を振り返り、「挑戦する人たちとの出会いが、挑戦する私に変えてくれた」と語ります。

「あるぼら」に入れば、知らなかったことが経験できるかも。

——吉田さんは、なぜボランティアサークルに入ったのでしょうか?

小学生の頃、地域の子ども会に行くと、中学生や高校生のお兄さん・お姉さんがいて、一緒に遊んだり、やさしく面倒を見てくれました。そういう姿を見るうちに、誰かを助けたり、誰かの役に立つボランティアっていいな、いつかやってみたいと思うようになりました。私が大学に入学した2020年はちょうど新型コロナウイルスがはやり始めた時期で、北大でもほとんどのサークル活動がストップしていました。その中でも活動を続けているボランティアサークルがあることをSNSで知りました。それが「あるぼら」でした。

インタビューに答える吉田さん。たくさんの出来事が思い出される。

——「あるぼら」での最初の活動先は?

西埜馬搬です。正式入会する前の「体験」で初めておじゃましました。西埜さんはこのとき、新しい家を自分で建てることに挑戦中で、建材に使う丸太の皮むき作業を手伝いました。初めての作業でたいへんではあったけれど、これが家や小屋になるんだって考えると、すごいことを経験させてもらってるなぁという実感が湧いてきて、ここ(あるぼら)に入ったらもっといろんなことが経験できるかもしれないと、期待がふくらみました。

一人ひとりのやりたいことを実践できる「あるぼら」にしよう。

——代表を引き継いだのは?
2021年度です。それから約2年間代表を務めました。

——代表になった当初は、活動の方向性に悩んだこともあったそうですね。

はい。もともと「あるぼら」は2011年の東日本大震災を受けて、自分たちがアルバイトで稼いだお金を被災地支援に活用しようという趣旨でスタートしました。北海道胆振東部地震が発災してからは、何か被災地の助けになれたらと、メンバーが直接厚真町へ出向いて農作業などのお手伝いを続けてきました。私が代表になったときは震災から2年半が経過して、被災状況が落ち着く中で「今後どのように町と関わればいいのか?」活動の方向性を模索していた時期でもありました。

あるぼらで企画した「厚真ツアー」で被災状況を仲間に説明する吉田さん

従来通りアルバイトでお金を稼ぎながら「被災地支援」を軸に全国各地の被災地を支援する方向性もあれば、厚真町との関わりのように「地域貢献」を軸としながら地域に入って活動する方向性もあります。当時20人を超えるメンバーがいて、中には東北出身の子もいました。活動に対する思いはそれぞれ違います。みんなで話し合った結果、だったらいろいろやってもいいんじゃない?という結論にいたりました。厚真町の活動にフォーカスする人たちがいてもいいし、道外の被災地との関わりを深めるメンバーがいてもいい、教育関係の活動に携わりたい人もいる、サークル運営のためにアルバイトをすることも大事。メンバーそれぞれが興味のあるセクションに所属して、セクションそれぞれで企画を立て、全体へ還元するというスタイルの組織に変えました。

——吉田さん自身は?

私は代表として全体を見渡す役割を受け持ちながら、個人としては厚真町のセクションに 所属して活動しました。厚真町の活動を続けたいと思ったのは、初めて厚真町を訪れたあのときの感動が強くあったし、先輩たちの代から関わりを築いてきた人たち、受け継いできた活動を、次へつなぎたいと思ったからです。

ボランティアの合間に、仲間と一緒に記念写真

厚真町の人たちと出会い、人生の選択肢が広がった。

——厚真町ではどんな活動をしましたか?

ハスカップファーム山口農園や土居ハスカップ農園、原木しいたけの栽培を行う堀田農園、循環型農業を実践するイチシマアキラさんの農園にも行き、農作業のお手伝いをしました。西埜馬搬や木の種社・中川さん、かまた木炭といった林業の関係先でも活動しました。あつま田舎まつりやスターフェスタ、3本引きなどのイベントにも参加しました。厚真町の魅力を発信する地図「あつまっぷ」や、その動画版の制作にも携わりました。町づくりワークショップに参加して町民の皆さんと町の未来について考えたり、小中学生を対象とした夏休み学習会に泊まりがけで参加したこともあります。たくさんの人と会って、いろんなことを経験させてもらいました。

厚真町の「田舎まつり」に参加し、仲間と打ち上げを楽しむ吉田さん(右下)

——特に印象に残っているのは?

どれも素敵な思い出ばかりですけど、厚真町の中学生とのリモートトーク会は特に印象深いですね。中学生の皆さんに、私たち大学生の視点から、進路選びや夢の見つけ方をテーマにお話をさせてもらいました。札幌のことを知りたいとか、大学生の生活について知りたいといった質問をしてくれた子もいました。企画したオフィスあっぷ・ろーどの上道さんから、厚真町の中学生は卒業したら多くが苫小牧や千歳の高校に通うと聞きました。学校の選び方やその先のことについてアドバイスしてくれる身近な存在がいないので、大学生の話は貴重だととても喜んでいただけました。「私たちにできること」と「厚真町の皆さんが求めていること」がぴったり一致した活動でした。

最も印象に残った厚真町の中学生たちとの「リモートトークの会」の様子

——今あらためて、ボランティアって何でしょうか?

難しい質問ですよね。そうだな…。人助けではない、というのが私の今の答えです。「助けてもらった」という幼少期の記憶からボランティアを始めたけれど、実際にやってみて思うのは、自分が与えるものよりも、いただくものの方が大きいということです。仕事とも違うフラットな関係性だからこそ、年齢も属性も超えて親しくさせていただけたし、活動をすることで得られる楽しさ、活動を通して知り合った人との思い出、それってかけがえのないものなんだと、活動を続けるうちに気づくようになりました。

2022年秋には、北海道大学で同じく厚真町で活動する「森林研究会」との合同企画も実現

ただ一方で、私たちが地域でボランティアをやりたいと願っても、関わり先を見つけることは本当に難しくて。私たちも活動地域を増やそうと動いた時期もありましたが、ボランティアを求めている人たちがどこにいるのか、それを学生の私たちが見つけるのは難しかった。厚真町の場合は、もともと移住者をはじめ外から入ってくる人たちの活動を支援する仕組みがあります。だから、震災後に先輩たちが厚真町でボランティア活動をしたいといったときにも、受け入れてくださる土壌がありました。その後もずっと関わりやすい場面を町が用意してくださったから、いろんな人と知り合えて、関わりが深まるにつれて活動の幅が広がっていきました。

——吉田さんにとって、厚真町はどんな存在だったのでしょうか?

大学以外のもうひとつの活動拠点であり、リフレッシュの場でもありました。コロナ禍でなかなか外へ出られずに息苦しい思いをしていた時期が長かったので、車で1時間半かけて厚真町へ行くことがとにかく楽しかったですね。そしてなにより厚真町のたくさんの人に会い、お話をさせていただく中で、人生の選択肢が広がったように思います。大人になれば、会社に就職して、そのままずっと同じ会社で仕事を続けることが当たり前だと思っていました。でも、厚真町でふれあった方々はバックグラウンドが本当にユニークで、都会から移住してセカンドキャリアを歩んでいる人や、代々続く事業を継承しながら新しい挑戦をしている人たちが、4300人の町の中に本当にたくさんいらっしゃって、こんな生き方も、あんな生き方もあるんだと教えられました。私自身、就職に悩んでいた時期でもあったので、すごく刺激になったし、視野が広がりました。

地域の人と一緒にバーベキューを楽しむ様子

——そうした経験は、就職活動でも役に立ちましたか?

そうですね。就職先を探すときの基準として、その企業は「挑戦できる環境か?」というのは私の就職活動の軸になりました。最終的に2社に絞り込んだときも、自分がよりチャレンジできる環境はどっちだろうかと考えた上で、新しいマーケット、新しいサービスを提供する企業にお世話になることに決めました。

——吉田さんにとって「あるぼら」の活動は?

もし「あるぼら」に入っていなかったら、大学生活が今とは全然違うものになっていたと思います。「あるぼら」では自分で企画を立てたり、人を集めたり、学部の勉強ではできないことを経験できました。受け身ではなく、自分から動いて、自分から吸収することの楽しさを知ることができました。自発的に動いたときに得られるものの大きさを感じられたから、きっと社会人になってもそこは自分の価値軸になると思います。

——吉田さん、今日はありがとうございました。

大学生が仲間と一緒に地域に関わる意味。大学の環境とは違う、もうひとつの場所。そこでどんな人にどのような形で出会うか。その関係性の中で何を感じ、自らの選択にどのように影響を与えるか。吉田さんと厚真町はそのひとつの形です。厚真町に何度も訪れてくれてありがとうございました。厚真町は、吉田さんはもちろん、一緒に来てくれた「あるぼら」の仲間、そこにつないでくれた先輩たち、今も関わり続けてくれている後輩の皆さんに感謝しています。吉田さんの新社会人としての第一歩を心から応援しています。いってらっしゃい。そして、機会があれば「ただいま」もお待ちしています。

2024年2月、後輩たちが「ランタン祭り」で並べた「あつまるくん」

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