予定外の北海道移住、そして厚真町との出会い ―厚真町観光協会事務局長 原祐二さん

2022年8月24日

北海道厚真町では2011年から地域おこし協力隊の受け入れに取り組んでいます。
都市部から過疎地域等に住民票を移して、その地域で様々な活動を行う協力隊の任期は最大3年間。その3年間の任期を地域で過ごし、その後はどのように歩んでいくのでしょうか。

今回は厚真町地域おこし協力隊として2015年から2017年まで活動し、任期終了後は厚真町観光協会事務局長として活躍を続けている原祐二さんにお話をお伺いしました。

カナダへ移住するつもりが...厚真町で地域おこし協力隊に着任

-原さんは関西のご出身とのことですが、どのような経緯で厚真町に出会ったのでしょうか。

原 話せば少し長くなるのですが、実は当初は北海道に住むつもりは全くなかったんですよ。
大阪で育った後、就職後は千葉や神戸のホテルに勤務していました。そんな時に、たまたまカナダに遊びに行ったら、カナダの友人から「ここで働かないか」と話をもらったんです。
常日頃から妻と自然の豊かな場所で子育てをしたいと考えていたこともあり、即決しました。トントン拍子に話は進み、もう引っ越しの荷物も送り始めていたんですよ。ところが、当時カナダは不況で失業率が高くなっていたことから外国人への移民申請が変更され、就労が難しくなってしまったんです。
それでカナダ行きは断念せざるを得なくなったのですが、すっかり移住する気でいたものですから「さて、どうしよう」となってしまったわけです。
次の生活の場を考えたときに、どうせならカナダのように大きな自然がある所を選ぼうと北海道を選びました。

-なんと、カナダ移住が北海道移住に変更になったんですね。

原 はい。そこから苫小牧市のホテルで働き始めました。
でも、せっかく大自然を求めて家族で北海道に来たのに、苫小牧市は僕たちにとっては少し都会的な印象だったんです。
そんなある休日にドライブに出かけていた際に、苫小牧市の隣町である厚真町に出会いました。ここは住むのに良いなぁと気になって調べてみたところ、厚真町の地域おこし協力隊「観光支援員」の募集情報を見つけたんですね。地域おこし協力隊という制度自体もそこで初めて知りました。 これまで観光に携わっていたこともあり、そういう制度があるなら厚真町で働けるかもしれないと応募してみたんです。そこで採用されて、厚真町に移住してきました。

厚真町観光協会で仕事をする原さん

-もともとはホテルで勤務していたそうですが、観光支援員としての仕事とは重なる部分があったのでしょうか。

原 神戸のホテルに勤めていた際には、営業を担当していました。ただ自分のホテルだけを売り込む営業ではなく、「神戸を売る」ことを意識していたんです。阪神淡路大震災後の景気低迷で神戸全体の集客が落ち込んでいたということもありましたし、神戸にお客様が増えれば、結果的に自分のホテルにもお客様が増えることになりますからね。そうしてエリア自体を伸ばしていかなければ先にはつながらないと思っていました。
そういった形で「町のいいところを宣伝して、いろいろな所から来てもらう」ことは観光業として共通する部分だったと思います。

-地域おこし協力隊として過ごした3年間はいかがでしたか。

原 とにかく色々なところを回って厚真町の地域を知ることや、人を知ることができたことが大きかったと思います。知り合いもいない町に引っ越してきてのスタートでしたが、みなさん外から来た僕にも分け隔てなく接してくれました。
厚真町の観光は農業や商工業の方、町民の方々とも関わりを持つことになります。そういった出会いを通じて、厚真町の観光を今後どうしていったらいいのかを考える土台を作ることができました。 生活面でも、自然環境がすぐ近くにある厚真町はとても気に入りました。近所の年配の方々が子どもを可愛がってくれるのも優しいですね。

厚真町内でもイベントを企画し、訪れた人に野菜や特産品のPRをしている

-地域おこし協力隊卒業後は、厚真町観光協会の事務局長として観光のお仕事を継続されています。どのようなことに力を入れていらっしゃるのでしょうか。

原 厚真町は、”一般的な観光地”ではありません。そのような中で、どういったことに取り組んでいったらいいのかを考えるのは難しくもあり、長く続けるやりがいもあるところですね。簡単に答えが出るものではないですが、やはりこの町の自然環境を生かしたツーリズムになるのではないかと思っています。
いま厚真町で人気の観光体験と言えば、厚真町内の田んぼで田植えから稲刈りまでを体験して、収穫したお米を食べることのできる「田んぼのオーナー」事業や、厚真町の特産品である「ハスカップ狩り」、ジャガイモの収穫とバーべキューが楽しめる「イモ堀り観光」事業があります。

「田んぼのオーナー」で厚真町の田んぼで稲刈りを体験する皆さん

原 そこに加えて、近年の厚真町では大きな出来事がありました。私が地域おこし協力隊を卒業した年に発災した平成30年北海道胆振東部地震です。
日本の観測史上、最も広い範囲で起こった土砂崩れの跡は今も生々しく残っており、現在は被災した町民自身が被災地を案内する「防災ツアー」を行っています。
そういった自然の脅威、減災、防災について伝えていくのも被災を経験した町の観光協会としての使命なのではないかと考えているんです。そして震災も含めた、自然を感じるグリーンツーリズムの一環としていきたいと思っています。

- 今後の厚真町の観光としては、どのような可能性をお考えでしょうか。

原 「被災地としての厚真町」が注目されてしまいがちですが、そうしたネガティブな部分だけではではなく、同時に良いところも知っていってもらいたいですね。
厚真町は、食べ物が美味しく、自然環境が豊かでありながら新千歳空港や札幌圏にも近く、北海道内の他の地域にも行きやすい利便性があります。そういったところを考えると北海道滞在のハブになれる可能性があると思うんです。
厚真町内にはムービングハウスを活用した新しい宿泊施設もできてきました。家のように滞在もできますので、厚真町を拠点に北海道観光を楽しむことができるのではないでしょうか。もちろんワーケーションにも良いと思います。
厚真町で長期滞在ができるということも、これから注目してもらいたいですね。



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