狩猟歴33年。「外に出たらすぐ猟場」の厚真に移住して、マイペースに流し猟を楽しむ
2017年3月22日
最低気温、-20℃にもなる北海道・厚真町の冬。ハンターにとっては、待ち望んだ猟期でもあります。「家から外に出たら、すぐ猟場なんで、気軽に猟ができる」と語るのは、趣味で狩猟を始めて33年になるというハンター・門脇さん。3年半前に札幌から厚真町へと移住し、現在は流し猟をマイペースに楽しんでいます。本州とは少し違った狩猟の話や、これから狩猟をやってみたい人へのアドバイスを聞いてみました。
退職したら田舎暮らしがしたかった
– 門脇さんは、どういった経緯で厚真町に引っ越してこられたんでしょうか。
門脇:もともとは札幌で働いていたんです。でも、退職したら田舎暮らししたいなあと思っていて。ここに移住してきたのは3年半前の夏ですね。母親の実家が日高の様似町なんですが、高速道路のない時代に札幌からそこまで行くのに、厚真町内の道路を通るんですよ。だから、昔から厚真町のことは知ってはいて。
ちょうど平成23年にフォーラムビレッジが宅地造成されて分譲が始まったとき、一度見にきたんですよね。でも自分のイメージしていた田舎暮らしとはちょっと違って、ほぼ向かいにあるルーラルビレッジの方も見てみたんです。そしたら何カ所か売地があって、自然もすごく近いしいいなと思って。ネットで調べて、業者に連絡を取りました。
– 狩猟は、札幌にいたときからやられているんですね。
門脇:母親の実家のおじいちゃん達が鉄砲やってて、いずれやりたいなあと若い頃から思ってたんです。そしたら28歳の時、たまたま仕事で出会った人が鉄砲をやってた。「実はやりたいと思ってたんだよね」って話したら、「一緒に行かないか」って言ってくれて。鉄砲持つ前から、山に一緒に入って獣を追っかけたりしてたんです。それで、これならやれるなと、30歳で免許を取りました。道東、道北、もうあっちこっち行きましたよ。もう33年になります。
– 厚真町では主に鹿を撃たれていると聞いていますが、昔から鹿猟を?
門脇:最初は、鴨をしょっちゅうやってましたね。捕りはじめの頃は楽しくて楽しくて、毎週末、仲間と石狩川に行ってました。でも10年もすると鴨はだいぶ飽きてしまって。最近はもっぱら鹿ですね。
– 北海道だと、熊が多そうなイメージもありますが。
門脇:33年鉄砲をやってますが、足跡はたまに見るけど、熊に遭遇したのは2回だけなんですよ。本当は熊もやりたいなと思って、厚真に来てから鉄砲もちょっと大きいやつに買い替えてて。でも、熊猟を教えてもらいたかった人が猟を辞めちゃってね。76歳だったかなあ、残念なんだけどね。1人で熊をやるのは、まだちょっと心細いなあと思っています(笑)。
マイペースに楽しめる、北海道ならではの流し猟
– 今は、猟友会に所属されているんですよね。このへんの地域では、どういったスタイルで猟をされることが多いですか。
門脇:普段は、それぞれのんびり流し猟をしていますよ。2月は巻き狩に出ることもありますね。猟友会に所属してるハンターは農家も多いんだけど、2月ってしばれる(厳しく冷え込む)し、農作業もなくて少し時間に余裕が出来る時期なんですよ。だから「行くぞー」ってしょっちゅう電話来るし、5、6人集まって猟に出たりします。あとは鳥獣被害なんかもあるので、その対策の為に一斉駆除をするときも有るんですが、そのときもグループで猟に出ます。
– 勢子や待子に分かれてグループで行う巻き狩は、本州でもよく聞くスタイルですが、流し猟はあまり聞きません。どういったやり方なんでしょう。
門脇:北海道では、一般的な狩猟法ですね。車でゆっくり走りながら林道を観察し、この辺はいそうだなってところで車を降りて歩いていって撃つ、というような感じです。北海道は自然も多いし、鹿への距離が近くて車から見つけやすいのもあるのかもしれないね。
– 巻き狩にはチームで追い込んでいく面白味があると思うんですけど、ひとりでの流し猟は自分のペースでできる良さがありそうですね。
門脇:捕らなくてもいい、っていうのは大きいよね。絶対捕りたい、根こそぎ捕りたいっちゅう狩猟じゃないから。チームでやるとね、まわりの目もあるし、みんな「捕らなきゃ」って思いやすいかもしんないけど。自分の好きな時に山に行って、いやになったら帰ってくればいいし。今日はダメだなとなったらすぐ帰るし、しつこくやりたいときはやるし。流し猟は、そういう楽しみがあるよね。
– 私の知る限り、猟師やハンターになる方ってわりと狩猟本能が強いというか、「捕れるならがんがん捕りたい」「絶対に猟果をあげたい」というようなタイプの方も多いと思うんです。門脇さんは、もう少し余裕を持って楽しまれている印象を受けます。
門脇:そうだね。仲間と一緒にみんなで猟に出たとしても、これ以上捕ってもどうしようもない数ってあると思うんだよ。どんどん捕るタイプの人を見ると、「そこまですることないのになあ」と思っちゃう方でね。1頭2頭仕留めたら、ほかの鹿が出てきても、おまえらいけいけ、って逃がしちゃうもん(笑)。また来年捕ればいいやな、って。
あとね、このへんって家から外に出たら、すぐ猟場なんですよ。遠いところから猟に来てると、「今日は絶対捕りたい」とか思う人もいるかもしれないけど、ここにいたら、焦る必要ないからね。気軽にね、散歩みたいな感じで猟ができるのは、やっぱりいいですよ。
– それはよさそうですね。ひとりでの猟の場合、本州では罠を使われる方も多いんです。でも、朝に罠を見回ってかかっていたら捕らなきゃいけないですし、天候なんかによっては結構大変そうで…。捕るタイミングや頭数を、なかなかコントロールできない部分があるのかなと思います。
そう考えると、自然を楽しみながらマイペースに流し猟をするのは、趣味として狩猟をやる上で、いいスタイルだなあと思います。近場にすぐ自然がある、厚真町の環境も大きいですね。
厚真のすばしっこい鹿との、知恵比べ
– もう少し、厚真町の狩猟事情について聞かせていただきたいなと思います。道内には他にいくつも猟場があると思いますが、厚真町は猟場としてどうなんでしょう。
門脇:厚真は、鹿そのものは少なくないと思います。むしろ、数はどんどん増えているんじゃないかな。札幌とかからも、毎年ハンターが100人以上、遠征に来ていますよ。札幌から通える場所だと、厚真や穂別(現むかわ町)はいい猟場だと思いますね。厚真は道内では雪も少ないですし、山に入りやすいですから。
ただ厚真の鹿は、他よりすばしっこいんですよ。一年を通して有害駆除などで追われていることもあって、学習もしてるし警戒心が強い。車を見たらばーっと逃げて行ったりね。だから車で山まで行って、足跡あるようなとこ見っけて、静かに忍んでいって捕ったりします。外から車で来てざーっと流すだけじゃなく、実際に山を歩いて見えてくるものがありますね。
– 前に厚真の歴史の話を取材したときにも、縄文人が食べた鹿の骨などがたくさん出土したと聞きました。数千年前から、厚真は鹿に恵まれた地域なのかもしれませんね。ちなみに、このへんで捕った鹿はどうされていますか。肉として販売されている方なども、町にいらっしゃるんでしょうか。
門脇:厚真では、売ってる人はいないんじゃないかなあ。うちでは、友達やら知り合いやらが欲しがるから送ったりするくらい。自分で燻製器を作ってスモークしたり、犬の餌用に保存がきく干し肉をつくったり、いろいろ工夫して楽しんでます。売ろうとかは考えたことないなあ。
いろんなハンターがいると思うけど、この町では肉を売るというよりは、趣味の延長みたいな感じで、猟を楽しんでるハンターが多いんです。前に犬にあげる肉が切れたときなんか、猟友会の仲間が「捕ったから持ってってやる」って、大きいソリに鹿一頭入れて引っぱってきてくれて(笑)。そういう感じですよ。
– なるほど。どなたかに譲ってもらわないと、厚真町の鹿は食べられないんですね…。北海道ならではの食べ方なんかもあるんでしょうか。
門脇:普通に塩コショウして、バターでソテーするのが僕は好きですね。6月の鹿なんて、農作物とか新芽とかいいもん食べてるし、肉にサシがかかってることもあっておいしいですよ。以前はルイべで食べる人も多かったんじゃないかな(*)。半解凍にして削って食べるやり方なんです。熊や鮭なんかも、昔からそうして食べていたそうですよ。
*2014年に厚生労働省より発表された「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針(ガイドライン)」で、生または加熱不十分な獣肉の、食中毒のリスクが指摘されています。本記事では、北海道の郷土的な食べ方を記録する意義もあり、「ルイべ」を掲載させていただいておりますが、一般的に推奨はされておりませんのでご注意ください。
– そういえば、厚真町にルーツを持つ猟犬を飼ってらっしゃると伺いました。
門脇:厚真犬っていって、珍しい犬なんだよ。虎毛が特徴。町内でも、もう数えるくらいしか飼っている人はいないね。もともと、アイヌの人たちがヒグマを狩りに行くときに連れて行ったりしていたそうなんで、勇敢ですよ。いま飼っているのは、虎夏(こなつ)っていう3歳の雌。北海道犬を飼うのはこれで3頭目なんですけど、前の2頭はよく鹿を追っていましたし、虎夏も使える猟犬になるんじゃないかな。
もう少しハンターが増えて、みんなで猟ができたら
– いま、「狩猟をやってみたい」という若い人も少しずつ増えてきているなと思うんです。そういう方が移住してきた場合、まずはどうするのがいいんでしょう。
門脇:まずは猟友会に問い合わせる。「一緒にやりたいんだけど」って言えば、誰かが山に連れて行ってくれます。それで少しずつ始める感じかな。やっぱり、一人でいきなりやるのは難しいので、先輩についていく。
狩猟もね、免許を持っていても、捕れないような人も結構いるんです。捕っても捌けないとかね。だから、ちゃんと山に入っている人に教えてもらうのがいいですよ。僕も昔は、白糠なんかに仲間たちと遠征して、だんだん撃てるようになっていきました。
– 猟をやる上で、なにか注意した方がいいことってありますか。
門脇:僕は鉄砲の先生から、「違反するような奴とは一緒にやっちゃいけない、鉄砲なくすぞ」って言われました。山の中だと、誰が見てるってわけでもないからばれないのかもしれないけど、だからこそ自分のモラルが大事ですよね。弾を装弾したまま歩いたりとか、危ない人とは、なるべく猟はしないようにしています。
鉄砲持つ上で1番大事なことは安全だからね。無線なんかでやり取りはしているけど、藪の中に入っちゃたりすると枝とかもあるし、追ってくる人がどこを歩いてるかわかんない場合もあるわけ。そういう時に無理に撃っちゃあいけない。獲物を捕るよりもまず、安全に帰って来るってことが大事だ。でないと、長く続けられないからね。
– 70代とかまで続けられる趣味でもありますし、自分のペースで、やり続けられるといいですよね。
門脇:僕はだいたい平均して年間50~60頭を捕っています。その場で解体して肉を持って帰るのと、あと役場や農協からは処理に係る経費をもらっています。年金の足しになりますし、狩猟をやるのは、趣味と実益を兼ねていますよ。でも僕なんて少ない方で、捕ってる人は年間200頭以上捕っています。それぞれのペースがありますね。
– 最後に、もっと厚真町の狩猟をめぐる状況がこうなったらいいな…というのはありますか。
門脇:そうだなあ…、寒くなってくると食べるもんがなくて山から下りてきた鹿が、畑に残った豆だとか野菜だとかを掘り返して食べたりしちゃうんですよね。電牧柵とか網とか張って、農家も対策してるけど、くぐって中に入っちゃう。農家も困ってるし、庭の花木をかじられて困っている人なんかの話も聞くので、全体としてもう少し鹿を撃ってもいいのかなと思うんですよね。
いま町内に26人ほどハンターがいるんですけど、猟友会には70代のメンバーも多くって、私なんかでも若い方。もう少しハンターが増えて、もっとみんなで猟ができる機会が増えればいいかなと思います。
– 鹿を捕ることが、自分たちの楽しみにもなるし、農家さんや近所の人たちを守ることにもなるわけですね。もちろん無理に捕りすぎる必要はないですが、マイペースに狩猟を楽しんでくれる人が、厚真町に増えるといいなと思います。自然の恵みがそばにあるからこそ、できる暮らしですね。