手話という言語で伝わる心、広がる笑顔 あつま手話の会「てのひら」の活動紹介

2024年3月14日

 あつま手話の会「てのひら」3代目代表の土居琴恵さんは、20年以上手話を学び続け、地域の人々と一緒に手話を楽しみ、ろう文化と触れ合う活動をしています。昔から組織に入っていろんな年代や職種の人たちと交流するのが好きだった、という土居さん。ご自身の経験で感じた「手話は言語」であること、ろう文化への理解を深め尊重することの大切さ、そして手話の会への想いをお伺いしました。

始まりは目の前の人とコミュニケーションが取れないもどかしさ

―土居さんのこれまでの経歴について教えてください。

土居: 厚真町の隣にある安平町早来出身です。高校卒業後、安平町内の銀行に勤めていましたが外の世界が見てみたいと、ちょうど町に来ていた劇団の公演を手伝ったことがきっかけで劇団に入り、全国を巡業する生活をしました。地元ではエネルギーが有り余って一人で突っ走ることもあったのですが、劇団での集団生活によって人をよく見るようになり、人付き合いがうまくなりました。道外に出たからこそ変わることもできたし、北海道の良さにも気づくことが出来た大切な経験でした。

―銀行員から劇団は全く違う業種だと思うのですが、演劇の経験があったのでしょうか?

土居:演劇は全くやったことがなく、やりたいと思ったわけでもありません。劇団での仕事も営業や裏方の制作の仕事でした。でも、青年団(早来町青年団協議会)に入っていていろんな年代、職種の人と一緒に地域活動をしたり、みんなでわちゃわちゃしたりするのが好きだったので、集団で何かをするということには興味がありました。青年団は胆振地区、北海道全体の上位組織があったので、町外との交友関係が広がるのも楽しかったです。組織に入って何かをすることはその頃から嫌いじゃなかったですね。

―土居さんが手話を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

土居:劇団が北海道に巡業にきたタイミングで元々務めていた銀行に戻ったのですが、ろう者の方が窓口に来られた時に簡単な挨拶の手話もできない自分がもどかしかったんです。それで隣の厚真町に手話の会があることを見つけて、参加しました。平成16年頃なので、ちょうど20年前のことになります。また、手話コーラスを見る機会があって、その手話の表現が綺麗ですごいと思ったのも始めたきっかけの一つです。その後、すでに厚真町内でハスカップの観光農園をやっていた主人と手話の会で出会い、結婚を機に厚真町に来ました。

青年団や劇団など「みんなで何かをする」ことが好きな土居さん。手話の会の代表引継ぎの話が来た時もすんなり決意ができたそう。

―農業の経験も全くなかったと思うのですが、そんな中で厚真町はどのような印象でしたか?

土居:結婚してすぐ子育てをしていたのでママ友しかつながりがなかったのですが、農協の女性部や「あすなろ」(※)に入らないかと声をかけてもらって参加してみたら、みなさんすぐ受け入れてくださってすごく助かりました。手話の会含め、私の性格的に外とのつながりがなかったらきつかっただろうと思います。

農業に関してはハスカップも知らないくらいでしたが、観光農園なら営業の経験を活かせるし、人と話すことが好きだったので大丈夫かなと思っていました。結局、観光農園だけでなくかぼちゃやブロッコリーの栽培もするようになって大変だなと思うこともありますが、嫌いではないです。

※「あすなろ」についてはこちらの記事をご覧ください(写真左が土居さんです)
https://atsuma-note.jp/asunaro/

伝わらない経験で知る「手話は言語」ということ

―土居さん自身は手話を勉強するとき、どういったことが難しかったですか?

土居:「てのひら」に入った当初は聴者だけで手話の勉強をしていて、いざ、ろう者の方とコミュニケーションを取ろうとしたら、手話が読み取れないし、こちらの手話も伝わらなくて「あれ?」となりました。ある程度の単語は分かっていてもそれをつなげて文章にすることが出来ていなかったんです。英語でいくら単語を覚えても文法が分からないと相手に伝わらないのと同じですね。「このままではダメだ」と思い、苫小牧市の手話サークルのろう者の方に指導してもらうようになって徐々にコミュニケーションが取れるようになりました。

―ろう者の方とのコミュニケーションが上達につながったんですね。

土居:手話も言語なので、直接ろう者の方に教えてもらうのが一番上達します。飲み会などの普段の会話が一番身に付きますし、本当に他言語を学ぶのと同じですね。

 手話はろう者の方の言語なので、手話でのコミュニケーションはろう文化を知って理解を深めることも欠かせません。今はSNS等があってろう者の方がたくさん発信してくださるのでろう者の方がどういう風に考えているか簡単に知ることができますが、ろう者の方とリアルに接して話を聞くことも重要だと思います。違う言語、文化で生きてきた人同士のコミュニケーションは相手の文化を理解して互いに歩み寄らないと難しいですから。

―聴者はろう文化のことを知らないと気づけないことが多そうです。

土居:手話には「日本手話」と「日本語対応手話」があって、生まれつき聞こえない人が習得しやすい日本手話は日本語とは全く違う文法です。第一言語が日本手話であるろう者の方で筆談が出来たり、日本語で書かれた文章が読めたりするのは幼少期から聴者の社会に入るために他言語である日本語を勉強した方です。中には十分に勉強ができなかった方もいます。日本語ができて当たり前ではないことに私たちはなかなか気づけないです。日本手話でしかうまくコミュニケーションが取れない人が災害時に情報弱者にならないよう、地域に手話が分かる人が少しでも増えるといいなと思っています。

楽しみながら、ろう文化の理解を深める場所「てのひら」

―手話の会ではどのような活動をされていますか?

土居:毎週金曜日19~21時で手話やイベントで披露する手話コーラスなどの練習をしています。1月から毎週火曜日13時30分~15時30分の昼の部が立ち上がりました。小学生から70歳以上の方まで講師となるろう者の方を含めて21名(2024年2月現在)が参加されています。チャリティーコンサートでの手話コーラスを見て「始めてみたい!」と思って参加してくださった方がいたり、学童で手話を教えていたらもっと知りたいと参加してくれた小学生の子がいたり、きっかけは様々ですね。また、追分高校や厚真高校での選択授業で手話を教えています。

昨年末、町内で開かれたチャリティーコンサートで手話コーラスを披露。

―手話の会の活動で大切にしていることはなんですか?

土居:手話を始められた方はどうしても「覚えなくちゃいけない」と感じて焦ってしまうかもしれませんが、楽しく長く続けて少しずつ覚えていけばいいと思っています。また、この手話の会を居場所だと思ってもらいたいです。中には仕事の都合で遅れて参加する方がいますが、少しの時間でも人とおしゃべりができて楽しいと言ってくださいますし、ろう者の方にとっても手話でのコミュニケーションができ、手話を通して社会とのつながりを感じられる場でもあります。

―手話の会の活動をしていて難しさや大変さを感じることはありますか?

土居:自分が大変だなと思うことはあまりないのですが、ろう文化への理解を深めることは難しさを感じます。今、手話の会で手話を教えてくれているろう者の方は聴者に対する理解が深く、言語が違う人達の中に入ってコミュニケーションを取るのはすごく大変だと思うのですが、手話を楽しく、分かりやすく一生懸命伝えてくれます。もしかしたら手話コーラスも「何をやっているんだろう?」と思っているかもしれませんが、私たちに合わせて歩み寄ってくれます。私たちもそれに応えるようにろう者の方の言語、文化に寄り添い、尊重していきたいと思っています。

この日はイベントで披露する「ありがとうの花」の手話コーラスの練習。手話として意味が通じるように確認しながら、メンバーみんながやりやすい手話にアレンジ。

手話コーラスを何度も繰り返して練習。途中コーヒーとお菓子を食べながらおしゃべりをする休憩をはさみつつ、2時間の活動はあっという間に過ぎていく。

―土居さんが今後取り組みたいことを教えてください。

土居:昨年、手話検定を受けたいという中学生の子がいたので一緒に受けたのですが、私もとても勉強になりました。今年も受けたいという方がいて、よい刺激になっています。今まで検定なんて無理だと思っていた人が、ちょっと頑張ってみようかなと思ってくれたら嬉しいです。子供たちがやりたいことも応援してあげたいですし、それぞれの他の習いごとやできることと手話のコラボレーションも面白いと思います。日本舞踊と手話を組み合わせた子がいたので、例えばフラダンスと手話もいいですね。
また、これまでは手話コーラスが中心でしたが、昨年小学生に向けて絵本の読み聞かせを手話でやったらすごく興味を持ってくれて、反応が良かったです。「てのひら」の中でできる人を増やして文化祭やチャリティーコンサートで披露したいですね。絵本も歌も独特な表現があって、文脈で言葉の意味が変わるので手話に訳すのは難しい作業ですが、違う作品の読み聞かせをやってみたいです。

―ありがとうございました。手話の世界が厚真町でますます広がっていくといいですね。

あつま手話の会「てのひら」は参加者を募集しています。
〇活動日
・昼の部 毎週火曜日13時30分~15時30分
・夜の部 毎週金曜日19時~21時
〇活動場所
 厚真町総合福祉センター

参加希望される方、一度見学してみたい方はお問い合わせください。
土居琴恵さんFacebook https://www.facebook.com/kotoe.doi



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