あの日の記憶を、あらたな関係性に紡ぎなおす。「ATSUMA96% PROJECT」。

2021年10月1日

9月6日。厚真町にとってこの日は忘れることのできない日です。2018年9月6日に発生した大地震は、厚真町に大きな揺れを引き起こし、広範囲に渡り森の山腹を崩壊させました。
それからちょうど2年後の2020年9月6日に、ひとつのプロジェクトが発足しました。

「ATSUMA96% PROJECT」
そして2021年の同じ日。「多様な林業のカタチ 北海道厚真町の挑戦」としてオンラインイベントが開催され、2つのプロダクトが紹介されました。厚真町より委託され本プロジェクトを推進しているのが、東京にあるドットボタンカンパニー株式会社。現在、プロジェクトマネージャーとして関わっている石川陽子さんに、これまでの取組と今後についてお聞きしました。

9月6日を忘れない。被災の記憶をプロダクトとして昇華させる。

-石川さんが本プロジェクトに関わるきっかけを教えてください。
2020年のプロジェクト発足の際にもイベントがあったのですが、私は参加者のひとりでした。もともと私の仕事はインバウンドの観光に関わるもので、コロナウィルスの感染拡大の影響を受けている時期で、何か新しいことをやりたいなとも思っていました。そして、本プロジェクトを厚真町から受託し、推進している「ドットボタンカンパニー株式会社」社長の中屋さんとも縁があったこともあり、関わることになりました。

お話を聞かせていただいた石川陽子さん。1年前はイベントに参加する側だった。


-まずはこのプロジェクトの目的を教えてください。
「忘れられゆく災害の記憶を年輪に刻む」こと、9月6日を忘れない。風化させないこと。そのために2つのことを考えました。ひとつは震災で山から出てきた「被災木」をしっかり生まれ変わらせて、消費者に届ける「プロダクト作り」。もうひとつは、厚真町の林業プレイヤーの力を川上から川下までつなぎ、持続可能な林業を示す「厚真モデルの構築」です。

-このプロジェクトにおける、石川さんの役割を教えてください。
プロジェクトマネージャーです。このプロジェクトには北海道、福井、東京、福岡、熊本、そして韓国と、さまざまな地域から、多様なバックグランドを持ったメンバーが関わってくれています。オンラインでのやりとりも多いです。そういった中で「距離を埋めていく」のが大事な役割です。

-その役割を果たそうとするなかで、苦労したことはありますか?
厚真町の森で「林業を営む人」と、例えば東京で「企画を考える人」では「時間の感覚」が違うと思います。どちらのペースが正しいということではないですが、締切りは締切りとしてあります。とはいえ、無理やり推し進めるものでもないですし、良いものをつくるためには時間がかかるのも事実です。チームとして納得して進めるような機運を醸成するのは、なかなか大変でした。
製作するプロダクトを何にするか?を決定することも苦労のひとつでした。「被災木を活用する」という前提はありますが、被災したということでアピールしたいわけではありません。うまく「昇華させること」を当初から大事にしていました。参加メンバーそれぞれの思いもありますし、皆で納得できる企画にするには、それなりの時間がかかりました。

120名の参加者の前で、プロダクトの発表


-2021年度に発表されたプロダクトについて教えてください。
「ITATANI(イタタニ)」というまな板と、「VOSA HOOK(ボサフック)」という荷物を掛けるためのフックです。
イタタニはアイヌ語でまな板という意味です。作るからにはしっかりデザインにこだわる。ミュージアムショップやセレクトショップでも扱ってもらえるものをイメージしました。開発には、北海道出身で今は福井で活動されているアートディレクターを中心に新進気鋭のグラフィックデザイナーにも関わってもらい、北海道ならではの動物をモチーフにしたプロダクトとなりました。
ボサフックは、厚真町の林業家の西埜将世さんの発案です。厚真町チームの皆さんは、いろんな人が関われる「体験を提供したい」という思いがありました。このボサフックであれば、皆で森に入り枝を探し、皮をむき、プロダクトにする体験を共有することができます。こちらもプロトタイプ制作の過程でデザイナーに入ってもらうことで、プロダクトとしてのクオリティを担保しました。

ボサフックを作るために拾ってきた枝の皮をむく。今後、関わる人に「体験」として提供したい。


-2021年の9月6日に開催したイベントで印象に残ったことはなんですか?
まずは「120人もの参加者があった」ことです。厚真町やこのプロジェクトに対する応援や注目を感じられて、とてもうれしかったです。イベントの中で参加者とディスカッションする時間もあったのですが、その場も積極的な発言で盛り上がりました。
登壇者の発表はどれも想いのこもったものでしたが、初めてイベントに参加した方々にとっても印象的だったのは厚真町役場の宮久史さんのお話だと思います。「震災があったという事実は変えられないけど、どう意味づけ、どう未来に向かうかは選べる」、「つらいことがあったけど、こうやって厚真町に関わろうとしてくれる人は増えている」、「それを可能にしたのは、厚真町がこれまでにそういう土壌を作ってきていたからだと思う」といった、ポジティブなメッセージを伝えてくれました。

-プロジェクトの今後の予定を教えてください。
今回発表した2つのプロダクトはイベントでの「先行販売」という位置づけでした。これをしっかり世に出していきたいです。そして新たにもうひとつプロダクトを企画する予定です。

北海道ならではの動物をモチーフにしたまな板、「ITATANI(イタタニ)」

「VOSA HOOK(ボサフック)」を実際に壁に設置したイメージ。森にあるただの枝がプロダクトへと姿を変えた。


-イベントの参加者という立場から、プロジェクトをまとめる立場となったこの1年間を振り返っていかがですか?
充実した1年でした。2020年の10月に初めて厚真町を訪れましたが、厚真町は本当に面白い町で人がとても魅力的です。外から入ってくる人を受け入れる土壌があることも素晴らしいと思いますし、それ故にこのようなプロジェクトが成立するのだと思います。また、森で過ごした時間は忘れがたく、森や木がぐっと身近になると共に、自然の循環を感じました
世の中にはモノが溢れ、その中で「意味のあるもの」を手に取りたい消費者は増えていると思います。そのような方にプロダクトを届けることはやりがいがあります。また、持続可能な社会を目指す機運が高まる中、自然の循環と人々の営みが感じられるこのプロジェクトに意義を感じています。
プロジェクトを通じて厚真町の魅力を広く伝えていけるよう、引き続き取り組んでいきたいと思います。



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