美味しい野菜を求めたら、環境のことまで考える農業に行き着いたekam(エーカム)市島さんの挑戦
2023年11月10日
農業支援員として3年間の研修を終え、厚真町で新規就農3年目を迎えた市島聡さん。現在「地域資源循環型農業」の実践や、圃場の約80%について有機JAS認証を取得するなど、環境のことまで考えた農業に取り組んでいます。なぜ循環型農業を始めたのか、そこで育つ野菜はどんなものなのか?市島さんにお話をお伺いしました。
美味しいトマトを毎日食べるため、農家の道へ
――市島さんが「農家になろう」と思った経緯について教えてください。
市島:北海道豊富町出身で、18歳で札幌に移りました。最初はアーティストになりたくてピアノを習いながら飲食店で働いていましたが、自分が本当にしたいことはなんだろうと立ち止まって考え直しました。 僕は料理や食べることが好きで、その中でもトマトが特に好きです。毎日美味しいトマトを食べるにはどうしたら良いかと考えた時に、生産者になろうと思ったんです。
――「農家になろう」と思ってからどのようなことをしましたか?
市島:理想のトマトを求めて、いろんな農家さんのところで働いて学び、調理技術を学ぶため札幌のイタリア料理店やフランス料理店でも働きました。そしてついに北海道今金町で理想のトマトを育てている農家さんに出会えて、その方が実践していたのが循環型農業だったんです。その農家さんに住み込みで2年間農業実習させてもらい、その時学んだことが今の自分の農業の基盤になっています。
――今金町で農業実習をしたあと、なぜ厚真町で新規就農となったのでしょうか?
市島:今金町で働いている時、冬の間はニセコのレストランで働いていました。海外のお客さまが多くて、住込み先も海外の方ばかりで交流がすごく刺激的だったんです。いつか海外の方々に来てもらって農業の交流をして技術習得を高めたいと思い、新千歳空港の近くで新規就農先を探したところ、研修施設や支援制度が一番整っている自治体が厚真町でした。
循環型農業とは、土、野菜、人間、すべてのバランスをとること
――そこから農業支援員を経て、現在新規就農3年目ですね。市島さんが取り組む循環型農業とはどんなものでしょうか?
市島:僕が取り組んでいるのは「地域資源循環型農業」といいます。まず畑の中の生態系と生物多様性を高めて、土の中に野菜が必要とする栄養を増やします。虫や雑草も分解されれば、いずれ野菜が必要とする栄養になります。そのサイクルが途切れないように、農薬や除草剤は使用しません。足りない栄養は町内で生産される有機資材、例えばもみ殻くん炭や平飼い鶏の鶏糞、米ぬかなどを使用して補います。地域内の資源を活用し、できる範囲で海外からの資材を使わずに野菜を育て続けられる畑にすることが目標です。
――地域内の資源を活用すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
市島:現在、主流の農業は、収穫量を最大化することで、私たちの食生活を支えていますが、海外から輸入した資材に頼らざるを得ない状態です。例えば、化学肥料に含まれるリンの原料となるリン鉱石が豊富にあるのは海外なので、輸入したほうがコストがかかりません。ただ、鉱物資源を消費しているのでいつか枯渇する懸念があります。 それに対し、周辺の農業や畜産業から出る廃棄物を肥料として再利用すれば、資源の消費を抑えることができると思います。そのほかにも、その土地らしい味わいになりやすいので、わざわざ食べたいと人々が来てくれるようになると考えています。
――化学肥料や農薬を使わない分、どういった大変さがあるのでしょうか?
市島:循環型農業も生活のために野菜を栽培しているので、収穫量を上げていく必要があります。それを実現するために畑にいる生き物がそれぞれ好きなように生きている状態をうまくコントロールしなくてはいけません。当農園では育苗土に鶏糞、もみ殻くん炭、米ぬかを配合するのですが、それぞれがどういう役割になるのかは専門的な知識と実践が必要です。除草剤をまけば一か月除草しなくて済むところを2週間に1回、野菜より大きくならない時点で雑草を刈るなど、人間の労力がかかります。
――循環型農業、一般的な農業どちらにもメリット、デメリットがあるんですね。
市島:どちらが良い、優れているということではなく、どちらも社会には必要で、お互い助け合っていくことで人類の生存可能性が高まると思っています。僕も今金町で学んだ循環型農業だけでなく、厚真町で学んだ一般的な農業も続けています。一つのやり方がうまくいかなくなった時、別の選択肢を選べるということが大事なんです。
――市島さんの畑で育った野菜はどんな特徴がありますか?
市島:窒素分の少ない畑なので、野菜がゆっくり育ちます。味がぎゅっと詰まって日持ちもいいです。また、基本的に固定種や在来種を栽培していて、できる範囲で美味しく元気に育った野菜から種を繋いでいます。結果的にその土地の環境に合った野菜が残っていくので、より美味しい野菜をたくさん栽培できるようになります。
――農園の名前であるekamはどういった想いで名づけられたのでしょうか?
市島:ekamは数学の0が発明された時代の古いインドの言葉で1という意味です。何もないと思っている状態を0、何もないと思っていたところに価値を発見していくことを1としました。 例えば、田舎には何もないと思っていたけど、実は観光資源として体験する価値があったり、土の中には何もないと思っていたけど、実はよく調べていくと虫や微生物の働きが分かってきて野菜の生育に影響していたり、0から1を見つけることを前向きに捉えるというコンセプトなので、この名前を付けました。
――今後のやりたいことや、将来の夢を教えてください。
市島:厚真町の皆さんは温かく応援してくれるので、農家として経営を安定させて恩返しをしていきたいですね。次は稲作を始めたいと思っていますが、技術習得まで5年はかかると思うので、できる範囲から始めます。あとは自宅の1階を加工場に改修して、自分の農産物を使った加工品を作りたいですね。加工品の売り上げをもとに次は飲食店、最終的には農業体験型のオーベルジュにして、海外の人が気軽に訪れるような場所にしたいと思っています。
今が旬、こだわりの農法で育てられた「在来種のかぶ4種」
――市島さんが栽培しているかぶはスーパーでよく見るかぶとは違いますね。
市島:大野紅丸かぶ、寄居かぶ、飛鳥あかねかぶ、日野菜かぶといって、すべて日本の在来種のかぶです。どれも個性があって美味しいです。就農1年目から作っているのですが、すごく好評でお客様にとても喜んでもらったので年々作付面積を増やしています。シェフの方にも「すごくおいしい」と人気で、道外からも注文が入るんです。 在来種はその土地の人々が長い年月をかけて現代まで繋いできた種なので、自然と美味しいものが多い傾向があると思います。人間と同じで種一つ一つに個性があるため、大きさや育ちにバラつきが出てしまうのですが、とても美味しいのでぜひ食べてもらいたいです。
――4種類とも特徴的なかぶだと思いますが、おすすめの食べ方はありますか?
市島:まずは蒸し焼きがおすすめです。フライパンに油をしいて焦げ目をつけて、水を入れて蒸し焼きにしたら最後に塩とオリーブオイルを垂らせば完成です。あとは漬物もいいですね。先日、皮をむいてカニみそを付けて食べたらめちゃくちゃ美味しかったです。葉は細かく刻んで、ごま油で煮干しや鰹節と炒めたら、ご飯が進むふりかけになります。ごはんとふりかけが1:1になるくらい、たくさん食べられます。家族みんなでわいわい4種類を食べ比べして、たくさんかぶを味わってもらいたいですね。
――かぶの他にはどんな野菜を育てていますか?
市島:レタス、ミニトマトや青色大豆も栽培しています。どれも味には自信がある野菜なので、ぜひ食べてみてください。
ありがとうございました。これからも環境にやさしい美味しい野菜作りを応援しています。
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